toggle
2011-02-11

20、大うつ病の神経回路について

 身体疾患に付随して起こる精神症状を示す患者を綿密に研究することによって、精神症状が起こる神経回路を研究する大きなヒントが発見できる。たとえば、ロビンソンらの画期的な研究によれば、脳卒中患者では、左側病変がうつ病を伴う傾向が高いの比べて、右側病変はそう病を伴う傾向が高いことが見いだされている。注目すべき点は、左側病変の患者では、病変が前頭極に近いほど、伴ううつ病の重症度が高くなる(1984)。逆に、2次性うつ病患者には、前頭機能不全があるとのエビデンスがあって(Mayberg,1994)、同じようなことは高齢初発のうつ病患者についても認められている(この場合は神経障害が比較的重要)(MacFall,2001)。これらの他にも、一般身体疾患に伴って生じるうつ病に関する文献の様々な所見が、うつ病の神経解剖学モデルを構成する上で役に立つ(Byrum et al,1999)。
 うつ病における線条体神経回路の役割を実証する研究としては、すでに定説であるが、その回路の病変(パーキンソン病、血管性うつ病)と抑うつ気分との関連性、うつ病と精神運動障害との関連性が指摘されている(Sobin and Sackheim1997)。さらに注目すべきことには、視床下部とHPA系(視床下部-下垂体ー副腎)に様々な異常のある患者は、重度のうつ病を発症する可能性がある。
 うつ病の精神生物学を研究するもう一つの有効な方法は、不幸な出来事の後遺症、特に早期の逆境体験に注目する方法がある。このような研究は、霊長類における分離が最終的に「うつ病」に相当する病像を示すことを発見した画期的な観察結果が原点となっている(Bowlby,1980)。最近の研究では、早期逆境体験の後遺症として、動物(Sanchez et al,2001)、ヒト(Heim and Nemeroff,2001)のどちらの場合でも、神経内分泌機能の変化と、恐らくその結果として海馬体積の減少が認められることが実証されている。
 その他にも、多くの研究がうつ病の神経回路を説明するのに役立つ情報を提供している。たとえば、検死脳の形態計測研究により、特定の細胞領域に萎縮が認められている(Duman et al,2000)。またうつ病において特定の認知的欠損が生じることが実証され、うつ病の神経回路解明の手がかりとなっている(Autin et al,2001)。難治性うつ病の治療には、これらの知見が必須であり、この分野の発展の鍵を握る技術は脳イメージングである。

Dan J.Stein著、田島治訳「不安とうつの脳と心のメカニズム」星和書店-より引用

2011年02月11日
タグ:
関連記事