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2011-03-02

21.大うつ病の神経回路について-2

  前回の続きです。難治性うつ病の治療には、神経回路の解明が手がかりとなり、これを解明する鍵を握るのは脳イメージングである、と述べた。具体的には、構造イメージング研究により、うつ病患者では、前頭前野、辺縁系/旁辺縁系(帯状回、海馬)、線条体の各領域に異常が認められている(Sheline,2000)。同様に、脳機能イメージング研究により、うつ病の特徴として、それらの領域の相互に連結する神経回路全体において活動性の低下が見られるという報告がある(Videbach,2000)。しかしこれらの結果はまだ確実ではない。たとえば活動性の低下(新皮質領域など)だけでなく、活動性の亢進のみられる領域{旁辺縁系領域(Mayberg et al,1999),また扁桃体(Drevets,2000)}のあることが見いだされているからだ。精神病性気分障害(=双極性感情障害も含む)における機能不全は、非精神病性のうつ病と比較して、より重篤であることを示すデータがある(Wang and Ketter,2000)。興味深いことは、多くの研究が、そう病の場合、前頭帯状回と尾状核を含む皮質-皮質下神経回路において活動性の亢進が認められる報告が多い(Blumberg et al,2000)。これら所見の細部に不一致はあるものの、多くの研究により、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬剤は、うつ病患者の脳機能イメージングの結果を正常化することが報告されている(Kennedy et al,2001)。また、薬物療法と心理療法的介入には共通する作用があることを示した非常に興味深い研究があり(Brody et al,2001;Martin et al,2001)、プラセボ反応はそれとは別の経路により伝達されることが発見されている(leuchter et al,2002)。簡単にまとめると、認知行動療法は「トップダウン型」で、大脳皮質の影響が辺縁系経路に及ぶことにより効果をもたらすのに対して、神経外科的損傷(辺縁系前頭白質切断術または尾状核下神経経路切断術による,Malhi and Bartlett,2000)は、辺縁系に対する「ボトムアップ型」の侵襲に相当すると考えられる。この見方によれば、薬物療法は「混合型」で、一次的な脳幹-辺縁系への作用と、二次的な大脳皮質への作用を併せ持つと考えられる(Mayberg et al,1999)。

2011年03月02日
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