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2011-03-19

22.外傷後ストレス障害(PTSD)の神経回路について

この度の東北・関東大震災では、多くの方々が未曾有の災害に遭われてしまい、心からお見舞いを申し上げます。多くの方が肉親や住まいなどを一瞬にして失い、幸いにして生き残った方々も、どれほどの悲痛な心境で今を過ごしておられるのかと思うと、本当に心が痛みます。阪神大震災の時にも、多くの方に、災害の後に心のケアが必要になりました。恐らく今回の震災の後にも、心のケアをしなくてはならない事態になると思います。さて、ここで今回の本題に入りますが、PTSDと言われている病態の神経回路はどうなっているのかを、少し詳しくご説明させていただきます。
 脳イメージングの所見から、部分的に正しいことを示す実証的エビデンスが得られている。構造的所見では、海馬の体積減少が注目されている(Raush et al,1998)。一部の研究では、海馬の体積減少と外傷への暴露または認知機能の障害との間に相関性が認められている。このような体積減少は萎縮によるものだと言う見解が一般的である。
 健常対象者のイメージング研究では潜在的な情緒刺激が皮質下の扁桃体で処理されていることが明らかになっている。実際にPET(電子放射断層撮影)実施時に、PTSD患者に外傷的な話と中立的な話をテープで聞かせると、正常状態の脳血流と比較して、外傷暴露時には、右側辺縁系、旁辺縁系、および視覚野の血流が増加し、左下前頭および中側頭皮質の血流が減少することが見いだされている(Raush et al,1996)。これらの研究結果から、PTSDの症状発現状態に伴う情動は、右半球内の辺縁系と旁辺縁系を介して生じるものであり、視覚野の活動化は、視覚的な再体験に対応したものであろうと結論づけている。一方で、PTSD患者が外傷に暴露された際に生じるブローカ野の活動性低下は、患者が外傷体験を言語的に処理できないことと一致している(Raush et al.1996)。
最近の研究では、PTSD患者の前頭前野におけるベンゾジアゼピン受容体結合の低下が示唆されている(Bremner et al,2000)。この領域の研究は現在注目されており、PTSDにおける前頭帯状回に注目する実証的文献も増えており、この領域の活動が低下しているという仮説を裏付けるデータも得られている(Hamner et al,1999)。最近の研究によれば、PTSDの小児や青年の前頭帯状回では、神経の完全性のマーカーであるN-アセチルアスパラギン酸/クレアチニン比が、健常対象者に比べて優位に低いことが示された(Hallingan et al,2000)。

Dan J.Stein著、田島治訳「不安とうつの脳の心のメカニズム」星和書店-より引用

2011年03月19日
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