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2011-05-11

28.精神疾患の原因は「遺伝」か「環境」か?の問題について

精神疾患についてよく聞かれる問題です。最近、統合失調症や躁うつ病の原因遺伝子が見つかったかのような話がありますが、実際はまだ、そう簡単ではありません。遺伝要因の指標として、頻用されるのはラムダ値といわれるものです。これは「疾患発端者の血縁者での発症率」/「一般人口での発症率」=ラムダ(λ)という数式で表されるもので、たとえば統合失調症の場合、一卵性双生児で一方が発症している場合、他方の発症は2人に1人、遺伝要因は結構強いです。一般人口の発症率は大体1%ですから、50%と言うことは相対リスクは50倍になります。ご両親ともに統合失調症であれば、その子供が発症するのは40%、それから二卵性双生児、両親、片親と、この人たちは50%シェアすることになり、発症率は10%ということになります(統合失調症発症と家族集積性のグラフを参照した)。すでに述べたように一般人口における発症率は1%(100人に1人)ですから、発症率10%というと、驚かれる数値かもしれませんが、「10人子供を産んで1人なるかどうか」というように考えると、それ程高いわけではありません。さて、遺伝率の話に移ります。これは、背の高さとか、統合失調症になるとか、これらを遺伝とそれ以外の要因とで分けた場合の、比率のことです。たとえば遺伝率が80%という場合には、遺伝によるものが80%で、それ以外の要因が20%という指標です。たとえば背の高さについて、背の高い父母からは背の高い子が生まれるのですが、その遺伝率は大体80%です。統合失調症や躁うつ病の遺伝率は大体84~85%くらいというのが研究者の共通認識です。また、IQの遺伝は、昔は非常に高く85%位といわれておりましたが、これは旧ソ連時代に一番教育熱心だった頃のデータです。米国では遺伝率は40%を超えない、むしろ現在は20~15%と遺伝要因は非常に小さくなっているというデータです。我々が計測するIQは教育環境で大体決まっているということです。これら遺伝の研究では、遺伝率の高い疾患を対象に選ぶことが多くて、精神疾患は遺伝率の高い疾患という認識があり、中でも統合失調症と躁うつ病は際立っております。遺伝率の高い疾患を並べていくと、まずは自閉症で93%、リスクは22倍。しかし実際は1/1000位のイメージで考えておくべきです。次いで統合失調症や双極性感情障害84~85%、拒食症60~70%、うつ病やパニック障害などは概ね30~40%、一方で糖尿病のインスリン依存型60~70%くらい、2型糖尿病は30~40%、ピロリ菌に感染するかどうかは50%前後、体質が半々であるというようなデータが出ております。
岩田仲生講演よりー心のクリニック、vol.11,2011ーより引用抜粋

2011年05月11日
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