toggle
2011-07-27

31.うつ病治療における大規模臨床研究の意義と限界について、

抗うつ薬の臨床効果を見るために、数多くの臨床研究が行われている。しかし、これらの臨床研究では、対象とした患者群に、はじめから差をつけて効果を見ていると言う批判がある。すなわち、対象とする群の患者は一般的に重症度が低く、精神症状も少ないという。このため、より実際の臨床に近づけるために、より大規模でより広範囲、そして参加しやすいように単純化することが望まれている。2006年に行われた代表的な臨床研究(STAR*D、Sequenced treatment alternatives to relieve depression study)を例に取って少し詳しく説明すると、全米の精神科専門施設とプライマリー・ケア施設から約4000名の外来患者を対象に、初回のSSRI治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、次に行う治療として何がより適切かを検討するものである。研究のデザインは4段階に分かれており、レベル1はシタロプラムにて、14週間治療され、寛解しない、あるいは認容できない者はレベル2へ進む。このレベルでは、ブプロピオン、セルトラリン、ベンラファキシン、あるいは認知療法に切り替える。併用群はシタロプラムに、ブプロピオン、ブスピロンもしくは認知療法が追加された。これでも良くならないものはレベル3へ進む。変更群はミルタザピンもしくはノリトリプチリン、併用群はすでに処方されている治療に、リチウムもしくは甲状腺ホルモンT3が割り当てられた。これでも反応しなかった者はレベル4として、すべての治療を中止して、トラニルシクロプロミン(MAO阻害剤)もしくはベンラファキシン+ミルタザピンのどちらかに割り振られた。結果はレベル1の寛解率は27.5%、レベル2での寛解率はブプロピオン21.3%、セルトラリン17.6%、ベンラファキシン24.8%、認知療法25%、併用群の寛解率はブプロピオン29.7%、ブスピロン30.1%、認知療法23.1%であった。レベル3での、変更群の寛解率は、ミルタザピン12.3%、ノリトリプチリン19.8%、併用群ではリチウム15.9%、甲状腺ホルモン24.7%であった。また、レベル4では、変更群の寛解率はトラニルシクロプロパン6.9%、ベンラファキシン+ミルタザピン13.7%であった。結論として、変薬や併用を試みると症状の改善することは示唆されたが、変薬と併用ではその効果に大きな差はなかったということである。この結果を見ると、うつ病について、どの治療法でも、せいぜい2~3割くらいの寛解率であるという厳しい現実を突きつけられる。もちろん実臨床の現場では、もっと多くの薬や治療法を選択する余地は残されているものの、一つの結果が示されたと見るべきであろう。
-中川敦夫、うつ病治療における大規模臨床研究の意義と課題、分子精神医学  2010.10より引用

2011年07月27日
タグ:
関連記事