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2011-11-02

34.双極性障害患者の自殺予防-リチウムとバルプロ酸を比較して、

 どちらの薬も、双極性障害患者に対する自殺予防効果について多くの研究があり、実際に予防効果があると言われている。今回はリチウムとバルプロ酸を比較して、自殺未遂の既往のある患者について、リチウムがバルプロ酸より、自殺予防効果があるかどうかを検証した。具体的には、DSM-Ⅳ診断基準の双極ⅠまたはⅡ型の患者で、過去に少なくとも1回は自殺未遂経験のある人、年齢は18才から75才まで、人種的偏りのない、98名の患者を、全くランダムに2群に分けて服用してもらい、2.5年間経過を追った。この間リチウムの血中濃度は0.6-1.0mEq/dlに保ち、またバルプロ酸は45-125mEq/dlに保っていた。なお、うつ病相の患者には、リチウムにパロキセチン(60mg)、あるいはバルプロ酸にパロキセチン(60mg)の併用を行った。これらの患者のうち、大うつ病診断基準に適合する人には、さらにブプロピオン(最大400mg/day)か、ベンラファキシン(最大375mg/day)を追加投与している。また、うつ病相でも、妄想を示す病状の人はさらにオランザピン(最大25mg/day)の追加投与を行った。混合状態の病相を持つ人には、リチウムにオランザピン、またはバルプロ酸にオランザピンの投与を行った。オランザピンに反応の悪い人は第二叉は第三の抗精神薬を適宜使用した。結果は、研究期間中に自殺した患者はいなかった。しかし、14名は18回の自殺未遂を起こした。内訳はリチウムグループは6名であり、バルプロ酸グループは8名であった。14名の自殺未遂患者は皆、女性であった。35名の患者が45回の自殺関連事象(自殺未遂、入院、あるいは救急搬送)があった。35名の内訳はリチウムグループは16名、バルプロ酸グループは19名であった。考察として、この研究において、リチウムとバルプロ酸の間には自殺予防効果についての明らかな差はなかった。理由の一つとして、リチウムの自殺予防効果はこの研究に参加した患者の重症度より、よりマイルドなものだった。とすれば、このような研究の場では、はっきりしないレベルの話なのかもしれない。また、経過中の低い寛解率は両グループの有害事象リスクが等しく存在することが認められる。さらには、バルプロ酸とリチウムは自殺行動においては、同じくらいの予防効果ということかもしれぬ。この点については、これまでの多くの研究で、リチウムやバルプロ酸の中断により、自殺行動のリスクが増大するという研究結果に合致する。

Maria A.Oquendo,Hanga C.Galfalvy,らによる「リチウムとバルプロ酸の自殺行動予防の効果について」Am J Psychiatry, Oct.168.2011より引用-

2011年11月02日
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