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2011-12-06

35.レジリアンスとは何か、少し詳しい説明

 レジリアンスを簡単に日本語に言い換えれば、回復力とします。回復力とは何か?欧米では、児童虐待や両親の離婚など、様々な心理的、身体的ストレスにさらされている子供たちにとって、キッズ・ストレスマネジメントなどと呼ばれている子供向けのストレス対処方法が必要な時代になっている。同じような境遇に置かれても、強いストレスにうまく対応できる子供と、ストレスに打ち負かされて様々な心の問題を生じる子供ではどこが違うのか。ストレスに対するレジリアンスはかなり個体差があることが心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究などからも明らかにされている。たとえば、サウスウィックらは、ベトナム戦争中に撃墜されて、6~8年間も捕虜として、拷問や独房への収容など極度のストレスを受けながらも、うつ病やPTSDを発症しなかった750人の男性パイロットについて研究報告している。これには神経心理学的な検査や、脳画像検査、DNAの検査などが含まれている。この研究から、これらの強いストレスに耐え抜いた人の心理的特徴、すなわちレジリアンスとして、10の項目が明らかになった。1楽観主義、2利他主義、3確固とした道徳的な基盤を有している、4信仰心や霊的なものを信じている、5ユーモアがあること、6自分の役割モデルを持っていること、7他人との社会的サポートを有していること、8恐怖を直視できること、9使命感を有していること、10何らかのトレーニングを受けていること、である。
 こうしたレジリアンスという概念は、遺伝子や細胞レベルから、心理社学的なレベルにまたがる幅広いものであり、うつ病治療における抗うつ薬の果たす役割や、回復モデルとして、レジリアンスという視点で捉えると、臨床的にも有用である。スイスのスタッセンが行った研究によれば、7種類の異なる抗うつ薬の効果を見るために、プラセボ比較対象試験で、治療開始からどのくらいで効果発現があるかを確かめたところ、ハミルトンのうつ病評価尺度で、総点数が50%減少するのには、平均して18~20日であった。これは大変早く効果が現れているもので、抗うつ薬はうつ病からの回復に必要な状態への引き金、すなわち回復軌道に乗せて、それを維持する役割を果たしているという。患者が本来有する心理社会的、および生物学的なレジリアンスを高めることを目指した治療法や治療薬の開発が望まれる。 

2011年12月06日
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