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2012-01-09

36.PTSD(外傷後ストレス障害)について、少し詳しい説明–

PTSDは長い間「異常な」出来事に対する「正常な」反応であると考えられてきた。しかし、実際には、外傷の発生率が極めて高いのに対して、慢性のPTSDにまで至る人々はごくわずかであることもわかってきた。このためDSM-Ⅳでは、PTSDは外傷的出来事に対する異常な反応、強い苦痛と機能的損傷を特徴とする「障害」とした。PTSDは外傷体験の直後に始まる。代表的な例では、戦闘(主に男性)やレイプ(主に女性)などの対人外傷と、自然災害がある。外傷体験後に現れるPTSDの症状には、3つの特徴的なクラスターが存在する。それは、再体験、回避と麻痺、覚醒亢進である。再体験と覚醒亢進の症状は、種々の不安障害にみられる「陽性」症状、すなわちパニック症状に幾分類似しているが、外傷的出来事を中心として起こる点で他と区別される。回避および麻痺の症状は、やはり不安障害に広く見られる「陰性」症状、すなわち回避症状を思わせるが、外傷的出来事の記憶の喪失という点が他と明確に異なる。罪悪感、恥辱感、怒りなど、PTSDと関連する様々な症状が特に重要な役割を果たしている。PTSDには重大な障害が併存していることが多く、なかでも気分障害、不安障害、物質使用障害が多い。逆に外傷に伴い、種々の気分障害やPTSD以外の不安障害が生じる可能性があることも認識しておく必要がある。そのため、気分障害や不安障害を抱える患者のアセスメントには、過去の外傷の有無についてのスクリーニングを含めることが必要となる。さて、PTSDについて、様々な研究から、障害の首座として、扁桃体と、海馬の異常が報告されている。扁桃体は、感覚情報をうまく制御して、コントロールする役割があり、また海馬は恐怖条件付けの処理の中枢で、恐怖条件付けがどこでどのように行われたかという顕在記憶と、恐怖条件付けそのものに関わる潜在的処理が解離可能であり、その処理を行う部分である。この解離は、外傷体験時には適応的であっても、外傷的出来事の処理とその後の適応反応の妨げとなる可能性がある(Brewin,2001)。脳イメージングでは、海馬の体積減少を認め、これは外傷への曝露、または認知機能の障害との間に相関性が認められる。実際PETを使った研究によれば、正常時脳血流と比べて、外傷曝露時には、右側辺縁系、旁辺縁系、および視覚野の血流が増加し、左下前頭および中側頭皮質の血流が減少する(Rauch et al,1996)。これらの研究から、PTSDの症状発現状態に伴う情動は、右半球内の辺縁系と旁辺縁系を介して生じるものであり、視覚野の活性化は、視覚的な再体験に対応したものであろう考えられている。
 
-不安とうつの脳と心のメカニズム、DanJ.Stein著より引用-

2012年01月09日
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