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2012-06-02

41.どんな性格の人がうつ病になりやすいのか?

 一般向けの啓発書にはよく「うつ病患者は真面目な人がなりやすい」と書かれているが、この仮説は本当だろうか?確かに日本の精神科臨床では、「うつ病患者は几帳面で他者配慮性が高い」と強調してきた。日本の精神科医療の流れは、ドイツ精神医学の影響が強い傾向があった。そもそも「几帳面で配慮性の高い人がうつ病になりやすい」という学説を提唱したのは、ドイツのテレンバッハという精神科医である。彼はうつ病患者には秩序への過剰なまでの志向(秩序志向)があり、それが几帳面、他者配慮性といった性格特徴として現れていると唱えた。そしてこのような性格特徴をメランコリー親和型性格と名付けた。テレンバッハが提唱したメランコリー親和型の特徴は「几帳面」である。時間厳守、規則厳守、整理整頓といった秩序を守る傾向を指すものだ。日本語の「真面目」という言葉は、様々な意味で使われる。倫理観が高い、勤勉、保守的、愚直といった、多様なニュアンスを含んでいる。これは正確にいえば、テレンバッハのいう「几帳面」という意味とはやや異なる解釈になっている。さて、日本やドイツ以外の国々、とりわけ欧米の教科書ではうつ病の性格特徴はどのように記載されているのだろうか。調べてみると、メランコリー親和型性格について書いてあるテキストを見つけることが難しい。米国の代表的な精神医学の教科書である「カプラン臨床精神医学テキスト」には、「うつ病にかかりやすい性格の特徴や型を一つに限ることはできない。どのような性格であろうとすべての人は相応な状況下でうつ病になりうる」と書かれている。また世界中の医学生向けの精神科教科書である「オックスフォード精神医学」では「単極性うつ病性障害が単独の人格のタイプと関連することは見いだされていない」と実にシンプルに書かれている。他国の教科書は、うつ病が一つの人格とは関連しないと明言しているのである。最近の研究では、不安や抑うつに敏感な人が、うつ病になりやすいという論文が、几帳面な人がうつ病に多いという論文よりも、はるかに多く報告されている。では、一体どんな人がうつ病になりやすいのか?結論をいうと、うつ病になりやすい性格は様々であるということだ。うつ病と性格に関係があることはこれまでの研究で明らかであるが、特定の性格傾向の人だけがうつ病になりやすいと強調するのは無理がある。もちろん抑うつや不安を感じやすい人はうつ病になるリスクは高くなるだろう。しかしそれ以外に、心の柔軟性を阻害するような偏った性格傾向もうつ病の発症リスクになる。

–冨高辰一郎著「うつ病の常識はほんとうか」日本評論社より引用–

2012年06月02日
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