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2013-03-31

51.不安障害の診断・治療の動向について、

不安障害患者の脳の特徴はどこにあるのだろうか?ヒトは不安や恐怖に直面すると、視床・後頭葉から不安の中枢である扁桃体に刺激が伝わり、一瞬のうちにフリージング(すくみ反応)を起こす。動物行動の進化から不安を研究したNesseらは、パニック障害や広場恐怖などの不安障害は危険から身を守るという意味で適応反応であり、どの動物にも脳内に不安恐怖の回路があり、扁桃体の反応によって起こるすくみ反応などは、正常な恐怖反応であるとしている。ただしヒトの扁桃体には個体差があって、遺伝的に同じ特徴が受け継がれる傾向があるために、不安を感じやすい人の扁桃体は容積が大きく、恐怖刺激による不安症状が出やすい傾向がある。
  扁桃体とともに恐怖刺激の中枢となるのが、側頭葉のinsula(島)である。不安を感じやすい人は、恐怖刺激を与えた際にinsula(島)が過剰に反応する。この島は臓器と密接に関連しているため、島が過敏であるということは、動悸・発汗・緊張・内臓の感覚が過剰に伝えられやすいと言える。そのため不安がより強く認知される。
 また脳の働きの面は、生まれ持った気質にも影響している。Watson,Clark,Tellegenらのモデルによると、人間の感情は独立した2つの感情系に分けられる。2つのディメンジョンを、ポジティブ感情とネガティブ感情という。不安障害患者は生まれつきネガティブ感情が非常に強く、その家族も同様にネガティブ感情が強い傾向がある。 不安障害患者の脳について多くの研究がなされているが、共通しているのは、不安障害の病因は生まれつきの脳の働きによるものが大きいということである。そのため、薬物療法や認知行動療法のトレーニングにより、脳を変化させていくことが必要とされる。ここでは、不安障害の治療の、新たな視点について少し述べる
不安障害の治療として注目されているのは、マインドフルネスである。不安障害の患者は先のことばかり考えながら、生活しているが、この、マインドフルネスは、今を感じて、今を生きられるようにして不安を和らげていく考え方である。最近ではマインドフルネスの介入がさまざまな不安障害や、うつ病にも有効であるというエビデンスが集まっている。マインドフルネスの考え方に基づいたトレーニング方法、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)に関する研究(Goldinら)では、MBSR実施前と後の扁桃体の反応を見ている。この結果、MBSR実施後に恐怖刺激を与えても、体の恐怖反応がでないという結果であった。 このマインドフルネスの導入は、不安障害治療に効果があると考えられるが、実際の臨床ではある程度の薬物治療が必要である。不安障害の治療では薬をいかに適切に使うかが大きな課題となっている。
  不安障害の治療終結は、患者から不安を取り除くことではなく、日常生活に困らないよう不安に対処できるようになることだと考えており、認知行動マニュアルを読んでいただき、患者自身に不安の対処、呼吸法を勉強していただくようにしている。

-田島 治「不安障害の診断・治療の動向」分子生物学No.4、2012より引用-

2013年03月31日
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