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2013-10-01

57.双極性うつ病治療に、抗うつ薬の使用は是か非か、について

双極性うつ病について、実際には抗うつ薬の使用は幅広く行われている。双極性うつ病に抗うつ薬の使用について、代表的な2つの見解を紹介する。
1.抗うつ薬を使用すべきである(使用しても差し支えない)とする意見
 双極性うつ病に対する抗うつ薬の効果は臨床試験で有効性が示唆されている。2004年Gijsmanらは、双極性うつ病に対する抗うつ薬のランダム化比較試験12本から、メタ解析を行い、いずれの抗うつ薬もプラセボよりも治療反応性が高く、治療反応率、寛解率ともに優位に高かった。三環系抗うつ薬(TCA)と、その他の抗うつ薬での治療反応性の違いは有意差はなかった。この研究結果からしても、双極性うつ病に抗うつ薬は有効であると考えられる。双極性障害のうち、双極1型と2型障害の薬物療法の有効性と安全性は異なるという報告がある。
2.抗うつ薬を使用すべきではないとする意見
 そもそも抗うつ薬の大うつ病性障害に対する有効性は、反応を指標としても70%程度、寛解を指標にすれば40~60%程度にとどまる。双極性障害における大規模臨床試験として、STEP-BD(systematic treatment enhancement program for bipolar disorder)が有名であり、様々な臨床データが抽出されている。このSTEP-BD研究から、2007年Sacksらによる報告で、双極性障害患者に、気分安定薬と抗うつ薬を使用した群と、気分安定薬とプラセボを併用した群で、26週まで経過を観察したところ、両群間で気分症状の改善には、有意差は見られなかった。また、双極性うつ病においては、躁転の危険性があるから、抗うつ薬を使用すべきではないという意見もある。社会的障害を来す躁状態を治療により起こすようなことは不適切であるという意見である。しかし、2004年のGijsmanらのメタ解析では、躁転について、抗うつ薬で3.8%、プラセボで4.7%に認められているが、抗うつ薬が優位に躁転を起こすことは示されていない。躁転率をTCAとTCA以外の抗うつ薬で比較すると、TCAでは10%、TCA以外の抗うつ薬では3.2%であり、TCAによる躁転率が優位に高かった。
 最近の研究では、抗うつ薬の効果ははっきりしないが、同時に躁転のリスクもプラセボと変わらないとの報告がある。2007年SacksらのSTEP-BD研究からの報告でも、躁転率に優位さは認められなかった。
 双極性障害の抗うつ薬使用においては、躁転に引き続く、急速交代化の誘発、自殺リスクの増加が、双極性障害に対する抗うつ薬使用に慎重さを求める意見として挙げられる。 STEP-BD研究から、2008年のSchneckらの報告によれば、STEP-BDの1191人の双極性障害の患者について、1年間の追跡調査の結果、抗うつ薬を使用した患者のうち、34%は再発・再燃せず、5%が急速交代化し、残り34%は1回だけ再燃・再発、27%は2~3回の再発・再燃であった。観察開始時の重傷度を補正しても、抗うつ薬使用は急速交代化の危険率を3.8倍増加させた。
以上、現在も双極性うつ病に対する抗うつ薬使用については、まだ、一定の見解は乏しいものの、効果や急速交代化という点で議論の余地がある。
-村岡寛之他、双極性うつ病における問題点:抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬  剤の使用は是か非か。臨床精神薬理Vol6.No10,2013より抜粋引用した-

2013年10月01日
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