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2014-04-03

63.「うつ病」に対する抗うつ薬長期投与のベネフィットとリスクについて、

  今回は抗うつ薬をいつまで飲み続ける必要があるか?について述べてみる。単極性うつ病の治療では、再発・再燃予防のために、寛解後も6ヶ月は維持療法を行うことが推奨されている。では、いつまで行うかは明確なエビデンスに基づくガイドラインがない。エビデンスの乏しいことを承知の上で、議論を進める。まず、なぜ抗うつ薬治療が長期化するのか?その背景を1)疾患・病態要因、2)患者側の要因および3)治療者側の要因に分類して分析してみる。

1)疾病・病態要因
そもそも、疾病として治療抵抗性の病態が長期治療の要因の一つに挙げられる。横断病像の中では、重傷度の高さ、精神病像、閾値下の躁症状、および不安障害の併存があげられる。また、縦断経過においては、遷延性の経過、反復性の再発が不良な転機と関係する事が指摘されている。これらの病態は抗うつ薬への反応としては良いものではなく、抗うつ薬単独治療にこだわると、結果として長期化する可能性がある。

2)患者側の要因
高齢者、神経症的傾向を有する患者において長期予後が不良という報告がある。また、心理的要因として、再発・再燃への不安や薬物治療への依存度が高く、治療への受容的姿勢の目立つ人ほど長期の抗うつ薬治療から心理的に抜け出しにくいことが予想される。一方、個々の患者の薬物に対する反応や構えに関して、低い認容性のため十分な投与量で治療できない脆弱素因を抱えていたり、自らの服薬アドヒアランスが不良であるが為に再発・再燃を繰り返す症例では紆余曲折の長期経過を辿りやすくなる。

3)治療者側の要因
一般的に、うつ病治療を行う治療者は急性期における寛解導入には大きな関心を払うが、部分反応や不全寛解のまま長期に経過する患者への強化療法には、いささか消極的な関与が目立つ。また寛解に達して安定しているように見える患者に対して、あえて抗うつ薬の中止による再発リスクを冒すよりも、維持療法を継続する安全策を選択する場合が多い。不十分な抗うつ薬治療、不適切な抗うつ薬選択、および少量多剤併用の放置がなされ、いたずらに治療が長引く場合も考えられる。

ここで、維持療法のメリットは何か?というと、第一に、ある抗うつ薬による急性期治療および維持療法にて効果が明らかであった場合、その後の維持療法においても同様の抗うつ薬が再発予防に向けて効果を発揮する。次いで遷延化や再発などの経過を辿る患者を対象とした研究において、抗うつ薬治療を長期間維持したほうが、再発率を有意に低下させるという事実がある。一方、長期使用時のリスクとしては、一部の患者において、抗うつ薬が長期連用される事により、次第に抗うつ薬への反応性の鈍化(tolerance)または治療抵抗性(resistance)が形成されていき、抗うつ薬による治療継続にもかかわらず、うつ病症状の増悪が見られる様になり、そこで抗うつ薬が中断されるとむしろ再発が起こり易くなるという逆説的な現象(oppositional tolerance)が現れるというものである。

-近藤毅「うつ病に対する抗うつ薬長期投与のベネフィットとリスク」臨床精神薬理Vol.17No4.2014より抜粋引用した-

2014年04月03日
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