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2014-06-05

65.不眠症治療の目安と減薬・休薬方法について

  世界的に見ても、日本人は睡眠薬に対しては、群を抜いて不安が強い国民である。特に長期服用、耐性による増量・離脱症状による減薬・休薬困難など依存に関する不安が最も多い心配事である。睡眠薬をはじめ、向精神薬を長期服用する不安や不満の背景には、精神医療のゴールが見えにくいという問題もある。糖尿病や血圧降下剤のように、生涯使えというなら、納得させるだけの根拠が必要となる。
ここでは、これらやっかいな不眠に対してどのように対処したらよいか考えてみる。

1,慢性不眠症の臨床転帰
慢性不眠症の多くは難治性であり慢性経過を辿る。たとえば不眠症状が週に3~4回以上の頻度で、1ヶ月以上の期間にわたり持続している不眠症患者のうち、その後不眠症状が消える人の割合は低く、罹病期間が長くなることが知られている。慢性不眠を有する者の70%は、1年後も不眠が持続し、約50%では3~20年後も不眠が持続する。

2.治りにくい不眠をどうとらえるべきか
長期化しやすい不眠症は、うつ病などの精神疾患に合併しやすいが、原発性不眠症においても、年余にわたる診療の必要なことが多い。不眠症患者の多くは、かかりつけ医の元で診療を受けているが、不眠治療に難渋している事情は同じで、長期・高用量処方が増加している。

3.なぜ治りにくいか
睡眠薬をできるだけ早く休薬するには、手段は問わず、不眠がこじれる前に良睡眠体験を積み重ねる事が望ましい。これは、不眠がさらなる不眠脆弱性を高めることによる。我々がストレス後にしばしば経験する一過性不眠は情動的過覚醒によって生じる一種の正常反応である。たとえば、東日本大震災やテロリズムを経験した人々の約60%は一過性不眠を経験した(通常は2~30%)。ただし睡眠は強いレジリアンスが働き、一過性不眠の大部分は自然寬解する。一方で、4~8週以上持続する慢性不眠に陥ると、情動的過覚醒から生理的過覚醒に移行する危険性が大きい。生理的過覚醒になると、葛藤状況や生活環境が改善しても不眠が持続しやすい体内環境になる。このような、慢性不眠に移行した場合には、薬物療法と平行して、できるだけ早期から睡眠衛生指導や認知行動療法の必要がある。

4.睡眠薬はいつまで服薬すればよいか
睡眠薬の適正使用ガイドラインでは、「不眠症が緩解した後には、睡眠薬は可能な限り速やかに減薬・休薬すべきである。減薬・休薬を成功させるためには、不眠症状が十分に消失しているとともに、QOL障害が改善している事が必要である。一部の不眠症患者では、睡眠薬の長期服用が必要である。その場合には、患者の不安を緩和しながら睡眠薬を安全に長期服用する治療選択も許される」としている。

- 三島和夫「不眠症治療の出口の目安と減薬・休薬方法」臨床精神薬理学 No4.2014より、抜粋引用した- 

2014年06月05日
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