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2014-07-01

66.双極性うつ病に対する治療について、

今回は、双極性うつ病の治療について考えてみる。最近の双極性うつ病の治療ガイドラインでは、気分安定薬や、一部の非定型抗精神薬を中心とする治療を行うこと、抗うつ薬を用いるときは、三環系抗うつ薬の使用はできるだけ避けて、SSRIを気分安定薬や、一部非定型抗精神薬と併用すること等が推奨されている。これらの治療により、重症の躁転や急速交代型躁病をかなり防ぐことができると思われるが、うつ病相が遷延する症例も少なくない。日本うつ病学会の双極性うつ病治療ガイドラインは、国内外の主としてプラセボとの二重盲検比較試験の結果から、quetiapine . lithium. olanzapine. lamotorigine の4剤を双極性うつ病の最も推奨される治療にあげている。しかしolanzapine以外は国内では保険適応外であるため、このガイドラインは健康保険診療との相違点が大きく、あまり現実的ではない。海外の治療ガイドラインを見ると、Canada(Canadian Network for Mood and Anxiety Treatment(CANMAT)とISBD(International Society for Bipolar Disorders)が共同で作った治療ガイドラインCANMAT/ISBDがあるが、様々なエビデンスレベルの治療法が治療ガイドラインに含まれているため、プラセボとの二重盲検比較試験などで有効性が証明されていない治療が、第一から第三選択の治療に含まれている。たとえば、lithium かsodium valproate と、SSRIの併用は、有効性が証明されていないどころか、大規模な二重盲検比較試験で効果は否定されている。また、lithiumとsodium valproateの併用、lithiumかsodium valproateとbupropionの併用も、プラセボとの二重盲検比較試験で有効性が証明されていない。これらの知見は他にもあって、治療ガイドラインの大部分は、エビデンスに基づいていないという欠点がある。CANMAT/ISBDの治療ガイドラインでは、olanzapineは双極Ⅰ型うつ病に対して、SSRIとの併用が第一選択薬として、単独治療は第三選択として推奨されている。olanzapineとの併用で実際に有効性が証明されているSSRIは、fluoxetineのみであるが、なぜかolanzapineとの併用の有効性が、paroxetineを除くSSRI全般に拡大されている。
双極性うつ病に対するプラセボとの二重盲検比較試験をしたところ、olanzapine単独、olanzapineとfluoxetineの併用、プラセボの3群間では、olanzapine単独と、olanzapineとfluoxetineの併用はプラセボに比べてうつ病症状を有意に改善した。さらにolanzapine単独治療よりも、olanzapineとfluoxetineの併用の方がうつ症状を有意に改善した。躁転の出現は3群間で有意差はなかった。
ここで、多くの学会のガイドラインで、双極性うつ病の第一選択薬として挙げられているlithiumについて、国内外で双極性うつ病に対する保険適応が承認されていない現状がある。2010年にようやくlithiumの双極性うつ病に対する大規模な二重盲検比較試験が行われた。結果はlithiumの双極性うつ病に対する効果は、プラセボと比較して有意差がなかったという残念な結果であった。これにより、lithiumの双極性うつ病に対する効果を今後再考する必要がある。

-井上猛「Olanzapineの双極性うつ病に対する臨床効果と適応拡大」臨床精神 薬理17:2014より、抜粋引用した-

2014年07月01日
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