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2014-08-04

67.双極性障害の妊婦にリチウム投与した時の、胎児への影響について、

今回、妊娠中に、リチウム投与受けた妊婦から生まれた児の奇形出現について、検証した論文を紹介する。双極性障害は、女性の場合、比較的若い時に発症する事が多く、妊娠出産の時期と重なることも多い。妊娠中に、リチウムなどの投薬を中止すると、病状の悪化を来すため、継続投与している患者で、最初の悪化から間が無くて、比較的病期の長い患者を対象とした。一方では、バルプロ酸やカーバマゼピンなどの情動安定化薬は催奇形性と関係することは知られている。リチウム製剤は動物実験(mice,rats,rabbits,and monkeysなど)では、奇形は認めないという報告がある。しかし、リチウム塩はmice,rabittsなどでは各種の奇形を示している。たとえば、神経管、眼、耳、腎臓、骨格、心臓など。特に、人では、心臓のエプスタイン奇形と、リチウム製剤の関係性があるという幾つかの症例報告がある。特に、妊娠初期(全妊娠期間の初めの1/3の時期)に、関係が深いとされている。これらの報告を踏まえて、以下の内容で検証した。183名のリチウム服用歴のある妊婦について、経過を追った。その90.2%は妊娠初期にリチウムを服用した患者である。比較対象として、748名の催奇形性のない治療を受けた妊婦と、72名のリチウム以外の治療(ハロペリドール、リスペリドン、デュロキセチンなどの投与、あるいは、カーバマゼピン、バルプロ酸、ラモトリジン、またトピラメイトなどの投与)を受けた双極性障害患者の妊婦である。これら3グループの間で、出生した児についての比較検討を行った。なお、リチウムの平均投与量は906mgであった。また、これら3グループ間の母親の平均年齢は、リチウム投与群32歳、リチウム不使用の妊婦群31歳、一般妊婦30歳、初産は、それぞれ28.1%、36.6%、26.7%。また喫煙歴の無い人は、それぞれ81.2%、77.4%、94.7%である。結果は、これら3グループ間の比較では、概して児に重大な奇形の差はなかったといえる。たとえば、出産時期は、リチウム投与群の平均は40週、リチウム不使用群の平均は39週、一般妊婦平均は40週、また出生児の体重はそれぞれ平均で、3200g、3100g、3240gと差はない。しかし、児の心血管系の奇形の出現率は、リチウム服用群は4.1%、リチウム不使用の双極性障害患者群では3.3%、一般妊婦からは0.6%であった。また、それ以外の臓器の奇形出現率は、これら3グループ間で差異はなかった。心血管系の奇形出現率を、個々の要因別に詳い分析を加えた。母親の妊娠時の年齢、過去の流産歴、リチウムや他の情動安定火薬の投与歴の有無、喫煙本数などを考慮しながら、理論的に補正して分析をすると、オッズ比率として、妊娠年齢では1.21、一日10本以上の喫煙者では3.12、リチウム服用妊婦の場合4.75、他の双極性障害治療薬投与患者からの出生児の場合5.43となった。
 リチウム非使用双極性障害治療患者の出産児がより高い心血管系奇形を示したというデータは、サンプルの少なさによる偏りか、あるいはバルプロ酸などの使用による奇形の出現を示したものかもしれない。

–Orna Diav-Citrin,Svetlana Shechtman,et al,;Am J Psychiatry 171:7,July 2014より抜粋引用–

2014年08月04日
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