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2015-02-01

73.オバマケアの正体は?その2、

オバマケア以前は、正社員は、会社の契約する民間保険会社に加入していた。しかし、その内容は、各種の制限のある診療であり、各保険会社が契約している病院の治療を受けるシステムである。もしその制限を超える治療、または契約していない病院の治療を受けた場合には、全額自費払いとなる。この自費払いの費用はとても高額で、すぐに数百万くらいの金額となることもある。このため、自己破産に追い込まれる人もたくさん出てきた。つまり患者が勝手に行きたい病院にかかる権利はなかった。オバマケアが施行された後、各企業はどの民間保険でも予防医療を含む10項目を保険の必須要件とし、個人年間負担額上限を6350ドルとした。同時にメディケイド高齢者医療費は1/3にカットすることを2大財源の一つとしていた。向こう10年間で5750億ドル(57兆5000億円)のカットである。実は高齢者医療に対する医師への支払いは通常の80%程度の治療費しか支払われていない。今後10年でこれが70%に減らされる。これが実行されると、15%以上の病院が高齢患者を診なくなるという予想がある。2007年政府のメディケア・メディケイドサービスセンターは、電子式診療内容報告書の導入を発表した。メディケア高齢者・障害者、メディケイド低所得層の患者を診る際に、医師は国に決められたマニュアルに沿って治療し、その結果を詳細に報告するシステムである。入力項目は詳細にわたり、全部埋めるためには患者個人情報の80%把握しておく必要がある。このレポートをもとに治療成績が評価され、国から医師への報酬が支払われる。しかし、どの患者に対しても一律に同じ治療を施すマニュアル治療ということは、患者一人一人が皆違う病状や環境であることを全く無視するとても悪いシステムだった。まるで患者を、同じ型で抜かれたクッキーのような扱いにしてしまうのだ。その結果、医師たちは複雑な病気や、治療が長期になりそうな患者を避けるようになった。政府が決めたマニュアル通りの治療をしていれば、レポートと引き替えにボーナスが出る。オバマケアはこのシステムを義務化して、医療費の削減を図る計画だ。さらに、それまで3000通りの治療コードが87000に、14000だった診療コードは70000に増やした。医師たちは新しい技術について行くのが面倒なわけではなく、本当に時間がない。結果は、多くの熱意のある医師たちを失望させて、医師を廃業するに至らしめた。これら医療制度に対する答えは、一つであろう。もし民間保険を廃止し、日本のような政府国民保険一本にすれば、医師を事務作業から解放するだけでなく、事務費用の節減でアメリカは年間4000億ドル(40兆円)もの医療費を下げられる。さらに、国民医療保険制度は、アメリカなら、メディケアを高齢者だけではなく、全国民対象に広げれば実現することである。
アメリカでは毎年、患者から保険会社と製薬会社に支払われる金額は非常に増えている一方で、医師たちに支払われる金額はひどく減っている。医師たちは報酬を減らされる上に、書類の山に埋もれ、国の決めた多くのルールに縛られ、治療方針を決める主導権を年々奪われ、患者の顔を見てじっくり話せる時間も少なくなっている。
これが現実の、オバマケアの正体である。

-堤未果著「沈みゆく大国 アメリカ」集英社新書-より抜粋引用

2015年02月01日
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