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2015-02-28

74.オバマケアの正体は?その3、次のターゲットは日本!

この連載の初めに述べたが、オバマケアと日本の国民皆保険制度は全く異なる。何が異なるかと言えば、日本の医療制度は憲法25条に基づく社会保障の一環であり、「公平・平等」が基本理念である。一方アメリカの医療は、「ビジネス」という位置づけである。いかにきれい事や数字データを並べても、国民の「命」が、憲法により守られるべきものという日本と、市場に並ぶ「商品」の一つというアメリカでは、根本的に考え方が違う。この事実を知らない日本人は、意外に多いのではなかろうか。だが、知らぬと言うことは、つけ入る隙を作ることになる。ウオール街と経済界に支配されるアメリカ政府から日本政府に対して、医療市場開放の圧力を加えて、混合診療解禁や株式会社病院、保険組織の民営化、診療報酬改革、公的保険周辺の営利民間企業参入や投資信託など、凄いスピードで規制緩和が進められている。これにまつわる法改正の多さにも驚愕させられる。日本の医療がアメリカ型医療になってしまうとして、日本医師会が反対する「TPP」交渉など、今まさに「国民皆保険制度」解体に向かって日本政府が行っていることは、四方八方から押し寄せる米国からの圧力の中の、ただの一つに過ぎない。そして、「国民皆保険制度」を持つ日本は、アメリカのウオール街や経済界にとってキラキラと輝く美味しい次の獲物である。
  2014年4月に消費税が8%に引き上げられた。「社会保障にあてるから」と繰り返し強調されたが、蓋を開けてみると社会保障に当てたのは、わずか1割のみ。ほとんどは法人税減税分で相殺されてしまう。しかも医療機関は企業と異なり、物品を購入すると、「仕入れ税控除」が認めらないため、消費税を支払うが、医療費は非課税のため、患者負担に転嫁できない。厚労省は、毎年診療報酬により補填されるとしてきたが、小泉内閣以来、毎年診療報酬は2200億円程度下げられてきており、消費税は現在各病院の持ち出しとなっている。これ以上消費税が上げられた場合、日本各地の医療機関は次々に倒産する可能性が高くなる。地方各地の悲鳴は年々大きくなるが、国民はこの危機感はほとんど認知されていない。マスコミは消費税の問題を取り上げる際、目に見える物価ばかりに焦点を当てるが、誰もが当事者になる医療という重要分野への影響は全くといってよいほど取り上げられず、国民に医師たちの悲鳴は聞こえてこない。代わりに繰り返されるのは、昔も今も「社会保障を維持するために、消費増税はやむを得ない」というフレーズである。
2014年ダボス会議で安倍総理が言及した持ち株会社型法人制度とは、実際は株式会社が出資できるような制度になっている。安倍政権の産業競争力会議がこれを提唱したとき、地方の中規模病院を経営する医師は真っ先に強い懸念を示した。医師ではないビジネス経営のプロが運営する救急病院・老人ホーム・介護福祉施設などは、効率化と、医療費削減を同時に進め、経営至上主義の医療ができあがる。2002年ランド経済学誌が発表したデータでは、過去11年間に全米3645病院の調査では、病院が非営利から株式会社経営に変わると、平均死亡率は3年で50%増加、その逆だと死亡率は下がったという。この事実を冷静に読み取る必要がある。

-堤未果著「沈みゆく大国 アメリカ」集英社新書-より抜粋引用

2015年02月28日
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