toggle
2016-07-06

90.心疾患を有する患者への向精神薬療法の留意点について、その2.

抗精神病薬の長期的な使用が多い精神疾患も、心疾患と無関係ではない。
今回は抗精神病薬と心疾患の関係につき説明する。
1.直接的な影響
 抗精神病薬は、薬剤間で差異は見られるものの、三環系抗うつ薬と同様に、抗コリン作用、α1受容体阻害作用、QT延長作用を有している。さらにD2受容体阻害作用により、心拍数の減少が生じることも示唆されている。特にhaloperidolは譫妄治療の際にしばしば投与されるが、経口投与より経静脈投与の方がQT延長を優位に来す。
haloperidol(iv),pimozide,quetiapine,<3+>
chlorpromazine,levomepromazine,clozapine,risperidone<2+> 
ここで、新規抗精神病薬の中にもQT延長を来すものがあることに注意が必要である。抗精神病薬による静脈血栓塞栓の危険性も知られており、特に新規抗精神病薬や低力価の従来型抗精神病薬、そして使用開始から3ヶ月以内がハイリスクといわれている。さらに、新規抗精神病薬の登場以来、体重増加、耐糖能異常、脂質代謝異常などの問題が大きくなり、長期的な投与が心疾患に与える影響が懸念される。これら代謝異常は新規抗精神病薬に多く認められる副作用で、clozapine,olanzapineにその傾向が強い。しかしこれを理由にこの2剤を使用しないというのは極論であり、これらは統合失調症の治療に大変有効であり、多くの患者のQOL改善に寄与している事実がある。
とはいえ、抗精神病薬の最も強い懸念は、突然死を含めた死亡リスクである。最近の報告では、慢性期の統合失調症患者で、全死亡率の最も高い群は抗精神病薬を内服していない群であり、心血管疾患による死亡率は、内服していない群と高容量の内服群が高かったとされている。
2.間接的な影響
 従来型抗精神病薬はCYP2D6を阻害することが多く、phenothiazine系はCYP1A2も阻害する。これに対して新規抗精神病薬はCYPに大きく干渉しない可能性が高い。臨床においては、抗精神病薬の代謝酵素をより重視するべきである。例をあげると、olanzapineを服用している患者にfuvoxamine:25mgを投与したところ、olanzapineの代謝阻害を受け、治療用量を26%下げる必要があったという報告がある。また、HIV感染症のため躁状態となり、risperidoneが使用された患者に、ritonavir(抗レトロウイルス作用を持つプロチアーゼ阻害剤)を投与したところ、CYP2D6とCYP3A4の阻害作用により、risuperidoneの代謝阻害を受け、昏睡状態に至ったという症例報告もある。さらに、CYP3A4を阻害するlovastatinにより、quetiapineのQT延長作用が増強することも指摘されている。さらに、carbamazepineの投与により、CYP3A4とCPA1A2を誘導するため、様々な抗精神病薬の血中濃度が低下することもよく知られている。
以上心疾患患者に抗精神病薬を投与する場合、肝機能・腎機能の低下に配慮しつつ心臓への影響の少ないものを選択し、薬物相互作用に注意を払う必要がある。逆に精神疾患患者に新たに心疾患が併存する際も基本的には同様であるが、先に抗精神病薬が使用されている点で異なる。抗精神病薬の切り替えは難しいことが多く、心疾患の治療者に十分な情報提供をすることが重要となる。            
宮内倫也、他「心疾患を有する患者への向精神薬療法留意点」臨床精神薬理19:2016

2016年07月06日
タグ: ,
関連記事