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2016-11-02

94.セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)の効能について

セントジョーンズワートは、医学的利用の最初の記録は古代ギリシャにまでさかのぼり、ヒポクラテスの教科書にも記載され、古くから抗炎症作用や消毒薬として用いられてきた。近年は大うつ病性障害や不安障害の治療に効果があると考えられている。ドイツでは伝統的医薬品であり、うつ病に対してSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬より広く処方されている。日本ではセントジョーンズワートは医薬品として認可されておらず、「食品」として市販されている。
さて、そのエビデンスについて、2008年コクランレビューによれば、セントジョーンズワート抽出物とプラセボ、あるいは標準的な抗うつ薬(SSRI・三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬)との効果を比較したRCTを含む29個の臨床試験を解析した。対象患者の多くは軽症から中等症の大うつ病であり、プラセボとの比較ではresponse rate ratio(RR)=1.48、SSRIに対してはRR=1.00、三環系および四環系に対してはRR=1.02であった。また、副作用による脱落率は最も低かった。以上から、セントジョーンズワートは軽症から中等症の大うつ病患者に対して、プラセボより優れた効果を示し、標準的な抗うつ薬と同等な抗うつ効果があり、副作用が少ないといえる。ただし少ないとはいえ副作用として、便秘・口渇・めまい・倦怠感・不安・疲労感・鎮静・光線過敏などの報告がある。
ただし、このレビューで採用された18編のプラセボ対照比較試験を、エントリー数の規模で2分したところ、小規模研究9編のRR=1.87であったのに対し、大規模研究9編の結果RR=1.28と差を認めた。これら効果の差に加えて、同レビューではセントジョーンズワートの抗うつ効果に関する報告がドイツ語圏(ドイツ・オーストリア・スイス)に偏る傾向を指摘している。18編のプラセボ対照比較試験について、ドイツ語圏の国とそれ以外の国の報告では、それぞれRR=1.78、RR=1.07と偏りがあった。また、セントジョーンズワート抽出物を含む市販製剤の内容が一定してないことも問題とされている。USA国立補完代替医療センターが実施した多施設RCTの結果では、HAM-D20以上の大うつ病性障害患者340名をセントジョーンズワート・サートラリン・プラセボに無作為割付し、8週追跡した結果によれば、セントジョーンズワート対プラセボ=-8.68:-9.20、サートラリン対プラセボ=-10.53:-9.20であり、臨床全般印象尺度(CGI)得点ではサートラリンがプラセボと比較して優位に改善している。副作用はプラセボに比較して、セントジョーンズワート・サートラリンが多く発現している。この結果は、セントジョーンズワートはプラセボ比較して極めて小さな抗うつ効果か、それ以下の効果しか示さないと結論しており、米国精神医学会では、抗うつ薬の補完代替として選択肢にはなり得るが、抗うつ効果は大きくないとしている。カナダ気分・不安治療ネットワークのうつ病ガイドラインでは、エビデンスレベルの高い治療法を推奨している。また、ドイツでもセントジョーンズワートを推奨しているが、エビデンスの不備を指摘し、製剤ごとの効果の違いや薬物相互作用に対する注意喚起している。英国国立医療技術評価機構のうつ病診療ガイドラインでもほぼ同じような理由で、推奨はできないとしている。

高信径介、他:セントジョーンズワートの大うつ病性障害に対する有効性
Vol,19No7.2016臨床精神薬理

2016年11月02日
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