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2016-12-31

96.双極性うつ病に対する抗うつ薬投与の是非の最新動向について、No.1、

双極性障害患者への抗うつ薬投与は、今日でも意見の分かれるところであり、その是非に関する多くの研究がなされてきた。米国で1998年~2005年に渡り行われた大規模臨床試験(STEP-BD)は新たな知見を示した。Trumanらは、抗うつ薬服用中の双極性障害患者の転帰につき報告し、自己申告での服用後12週目の調査結果では、44%が躁転や混合状態の発現を報告した。躁転のリスク(オッズ比)は、三環系抗うつ薬:7.80、SSRI:3.74、DNRI:4.28、であり、躁転は罹病期間の短さ、複数の抗うつ薬服用歴、薬物性躁転の既往歴と相関していた。Sachsらは気分安定薬服用中の患者に抗うつ薬、またはプラセボを追加投与して26週間経過観察した。26週の時点で回復した患者は、抗うつ薬併用群23.5%、プラセボ併用群27.3%であり、paroxetine併用群、bupropion併用群、プラセボ併用群の3群間で差異は認めなかった。また、躁転率は抗うつ薬併用群とプラセボ併用群で、軽微な差異はあるが統計学的な有意差は認めなかった。Ghaemiらは新規気分安定薬と抗うつ薬の併用投与により2ヶ月以上安定している双極性障害患者を、無作為に抗うつ薬継続群と、抗うつ薬中止群に分類し、3ヶ月経過観察した。結果は両群間でうつ病エピソード予防や寛解率に統計学的有意差は認めなかった。抗うつ薬継続群では、うつ病エピソード再燃までの期間が長く、再燃時もうつ症状が重篤ではないという傾向が見られ、躁症状の増加も見なかった。しかし、ラピッドサイクラーでは、抗うつ薬継続群のうつ病エピソードの再燃は、抗うつ薬中止群の3倍であり、抗うつ薬長期投与による若干の有益性はあるが、明白な利点はないと結論している。このラピッドサイクラーの研究では、気分安定薬と抗うつ薬を服用している患者を、無作為に抗うつ薬継続投与群と、中止群に分けて経過観察した結果、抗うつ薬継続群では、非ラピッドサイクラーと比較して、ラピッドサイクラーは、すべての気分エピソードが年間2.68倍、うつ病エピソードは年間2.93倍と倍以上に増加し、寛解期は0.288と著しい減少を示した。抗うつ薬中止群ではラピッドサイクラーと非ラピッドサイクラー間の差異は無かった。これら一連のSTEP-BDの研究結果を踏まえて、ラピッドサイクラーでは勿論、双極性うつ病に対する抗うつ薬の追加は転帰に良い影響を与える可能性は低く、積極的な使用は控えるべきという見解であった。
 しかし、今世紀に入り、双極性障害に対する抗うつ薬の有効性を示した報告がなされている。Gijsmanらは、典型的気分安定薬や第二世代の抗精神病薬を服用している双極性障害患者の研究で、プラセボに対する抗うつ薬全般の治療反応率、および寛解率の相対危険度はそれぞれ1.86と1.41であり、抗うつ薬はプラセボと比較して有効性が高いことを示した。抗うつ薬の種類別に治療反応率を比較したところ、三環系抗うつ薬の相対危険度は0.84であり、抗うつ薬間で治療反応率に統計学的有意差は認めなかった。また、躁転率は抗うつ薬投与群で3.8%、プラセボ群で4.7%であり、抗うつ薬が有意に躁転を引き起こすということは示されなかった。しかし、抗うつ薬間の躁転率を比較した所、三環系抗うつ薬10%、他の抗うつ薬3.2%であり、三環系抗うつ薬の躁転率相対危険度は2.92と躁転率が有意に高いことが示された。

辻敬一郎他「双極性うつ病に対する抗うつ薬投与の是非のついて最新動 向」 臨床精神薬理Vol19.No11.2016より抜粋引用--

2016年12月31日
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