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2017-02-06

97.双極性うつ病に対する抗うつ薬投与の是非の最新動向について、No.2。

双極性うつ病について、抗うつ薬を投与して良いか悪いか、エビデンスを探る。Bondらは双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害、および大うつ病性障害の3群間で、抗うつ薬による躁転リスクを検討した。まず双極Ⅰ型と双極Ⅱ型について13の試験を解析した所、全試験における躁転率は、双極Ⅰ型:14.2%、双極Ⅱ型:7.1%、16週以内の短期投与試験では、それぞれ23.4%、13.9%であった。次に双極Ⅱ型と大うつ病性障害について、5つの試験を解析したところ、全試験における躁転率は双極性Ⅱ型:8.1%、大うつ病性障害:1.5%、16週以内の短期投与試験ではそれぞれ16.5%、6.0%であった。これらの結果から、抗うつ薬誘発性の躁転率は双極Ⅰ型、双極Ⅱ型、大うつ病性障害の順に高いとしている。双極性障害に対する抗うつ薬の単剤投与の安全性についての解析もある。McInerneyらの報告では、幾つかの小規模研究でSSRI単独療法を支持する報告はあるが、多くは否定的な報告であること、抗うつ薬はあくまで他の治療法が難渋した際の第2選択薬であること、急性期の双極性うつ病に抗うつ薬を投与する際は、lithium.valproate.carbamazepineなどの標準的な気分安定薬と併用すべきであること、抗うつ薬の非定型抗精神病薬との併用に関する良いエビデンスは得られていないこと、抗うつ薬の使用は長期的に見て病相変化や混合状態を招くリスクがあることなどの指摘がある。国際双極性障害学会(ISBD)の見解として、抗うつ薬投与による治療上の有益性は一部の双極性障害患者において認められ、厳密に統制された少数の抗うつ薬長期投与試験ではその有効性が示されているが、確立されたものとは言い難く、抗うつ薬と気分安定薬の併用に関する治療効果のエビデンスは不十分であるとしている。また、躁転に関しては、SSRIやbupropionは三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬、SNRIと比較して躁転リスクは少ないこと、抗うつ薬による躁転は双極Ⅱ型より双極Ⅰ型に多く、従って双極Ⅰ型に抗うつ薬を投与する場合は気分安定薬の併用が推奨されることなどが示されている。このISBDの勧告を検証すべく、Tundoらは、双極性障害とうつ病患者を対象としたオープン試験を行った。このテストでは、すでに気分安定薬を服用している患者はそのまま継続した。結果は、12週後の反応率は単極性うつ病患者:64.2%、双極1型患者:75.5%、双極Ⅱ型患者:75.0%と差異はなく、統計学的な有意差も認められなかった。また寛解率も単極性うつ病患者:51.3%、双極Ⅰ型患者61.2%、双極Ⅱ型患者65.4%であり、これも統計学的な有意差は認められなかった。以上より、Tundoらは、双極性障害患者に対する抗うつ薬の投与は単極性うつ病患者と同等の反応率や寛解率を呈し、顕著な病相変化や自殺リスクは示さなかったことから、双極性うつ病に対する短期抗うつ薬治療は有効であり、抗うつ薬投与に関するISBD勧告は概ね支持するが、有効性・安全性に関してはもう少し強調しても良いのではないかと提言している。以上より、双極性うつ病に対する抗うつ薬治療に対しては、ラピッドサイクラーや混合状態への抗うつ薬投与に対する強い警告、抗うつ薬単剤投与は原則推奨されないこと、三環系抗うつ薬で躁転率が高いことなどは恒久的な見解であるが、最近の解析では、双極性うつ病に対する抗うつ薬の有効性はうつ病患者のそれに勝るとも劣らないし、安全性においてもこれまで危惧されていたほどのリスクはないとする報告があることを紹介した。

辻敬一郎他「双極性うつ病に対する抗うつ薬投与の是非に関する最新動向」
臨床精神薬理Vol.19 No.11,2016より抜粋引用

2017年02月06日
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