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2017-06-01

101. 日本の医療、比べてみたら10勝5敗3分けで世界一、その2

今回はすぐに医師に診察してもらえるかという問題について書いてみます。
どれほど高い医療技術があっても、それが国民にとって、どのくらい「身近」であるのかは大変に重要です。医療と人をつなぐのは健康保険ですが、日本の場合、国民皆保険制度をとっております。結論から言えば、日本の健康保険制度は世界で最も優れた制度であるといえます。しかし「日本の医療費負担は3割もある、一方イギリスや北欧等は無料じゃないか!」という反論が出そうですが、その中身を見てみます。かの国は医療費は全額税金で賄われており、自己負担はゼロに近い。どこか具合の悪いとき、近くの医院で診てもらうというのは日本では当たり前のことですが、イギリスでは違います。それは、医師にかかるまでに手順があり、通常患者が出向くのは薬局です。ここで自分の症状を相談して、薬を買う。薬を飲んで改善しなければ、次にコンタクトをとるのは看護師です。欧米には医師の指示無しに診断や薬の処方ができるナース・プラクティショナーという上級看護師がいて、こうした看護師が沢山独立開業しております。まずは電話で相談し、助言をうけるのです。ここまでに治ってしまう患者もいるわけですが、治らぬ患者もおります。その段階でようやく地域のかかりつけ医の診療を受ける。このような順序がイギリスの医療体制です。その後必要に応じて、かかりつけ医から大学病院や専門医を紹介されます。日本のように、患者が勝手に病院を選べるのとは大違いです。要するに、イギリスでは具合が悪いからといって、すぐに医師に診てもらえるわけではなく、医師までの距離が遠いわけです。もし、いきなり医師を訪ねても、あまり相手にしてもらえません。国際比較調査グループ(ISSP)の調査に寄れば、「この一年間に医療機関を受診したか」の問いに、調査31カ国中、日本64%でトップです。これに対してスウェーデン等では滅多なことでは医師にかからない、というよりもかかれないというべきか、イギリスと同じ仕組みとなっているのです。スウェーデン政府は医療政策の目標として、希望すれば1週間以内に医師の診察を受けられること、必要な手術は90日以内に受けられること等を挙げております。国の挙げる目標がコレですから、実態はこの何十倍も時間をかけないと、医師の診察や手術も受けられないということです。医師にかかるハードルが高いのはUSAも同じですが、こちらは医療費が高いことがバリアとなっており、これを超えられるのは、経済的に豊かな人たちだけです。日本人の常識からすると、医療に対するアクセスが非常に悪いといわざるを得ない。また、イギリスでは医師は準公務員であり、日本とは違ってどこでも開業することはできない。各エリアごとに医師が一人ずつ置かれ、それぞれが2000~3000人の住民を受け持つようになっています。その割り当て人数に対する報酬を国から支給されており、診療人数の多寡により、報酬が増えるというものではありません。これがイギリスのかかりつけ医が多くの診療をこなそうとはしない理由の一つです。また、イギリスにはCTやMRIのような高度な検査機械が多くないので、数ヶ月の検査待ちも良くあります。ただし進行性のがんなどは、自己負担により大学病院で診てもらえるルートはあります。一部の富裕層は、医療ツーリズムという方法をとる人もいて、インドなど他国に飛んで、外国人患者を受け入れる病院を受診し、お金を払ってその日のうちに検査を行い、場合により翌日手術ということもあります。医療の身近さを計るもう一つの指標は、医師数です。OECD加盟国の中で、人口1000人あたりの医師数を見ると(2015)、OECD平均3.3、多い国はギリシャ6.3、オーストリア5.0、ロシア4.9、 以下、少ない国はイギリス2.8、USA2.6、日本2.3というわけで、日本はかなり少ない国です。この少ない数で皆保険制度のもと、イギリス等と違って国民にとってごく身近な体制を維持しているのですから、医師がオーバーワークになるのも当然です。

-真野俊樹「日本の医療、比べてみたら10勝5敗3分けで世界一」より引用-

2017年06月01日
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