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2017-09-01

104.抗うつ薬の減量と離脱の問題について

 抗うつ薬を減量、中止するタイミングとして、最も多いのは、うつ病回復後の維持療法、継続療法期間を終えて治療終結に向かう場合である。次に抗うつ薬の効果が不十分な場合(switching)、あるいは副作用が発現し、他の抗うつ薬に変更する場合、また、患者が自己判断で減薬や中止の場合である。
抗うつ薬をswitchingする際には、前投与薬漸減、新規投与薬漸増という方法をとることで、離脱に関連する問題は起こりにくい。抗うつ薬の中止に向けて減量していく場合は、医師が離脱症状に注意しつつ慎重に漸減を行うことで、抗うつ薬からの離脱が安全に実行出来るものの、時にわずかな減量で、想定外の離脱症状を示す患者もいる。抗うつ薬の急激な減薬や中止に伴う離脱症状は中断症候群や中止後発現症状などと呼ばれているが、最近は、今までに無いとされてきた抗うつ薬の身体依存の存在が議論されるようになってから、離脱症候群と呼ばれるようになっている。抗うつ薬の離脱症状は、特に半減期の短いセロトニン再取り込み阻害薬(SRI)に多いといわれており、中でも、SSRIのparoxetineに最も多く、ついで、SNRIのvenlafaxineに多いと言われている。カナダ気分・不安治療ネットワークガイドライン(CANMAT)では、抗うつ薬の離脱症状を、以下のようにまとめている。インフルエンザ様症状(flu-like symptone)不眠(insomnia)悪心・嘔気(nausea)めまい・ふらつき(imbalance)知覚異常(sensory disturbance)過覚醒(hyperarousal)、これらの頭文字をとり、FINISHと呼び、抗うつ薬の急激な中断した場合の、これら症状の発現率は40%であるとしている。実は急激な減量でなくとも、抗うつ薬の減量の過程で、離脱症候群が出現するケースもあり、その発現率はSSRI服用者の1/4以上、おそらく半数の人に生じていると推測されている。ここで注意すべきは、「離脱恐怖症」とでも呼ぶべき状態である。一度離脱症状を経験したことにより、些細な変化を離脱症状と混同してしまうものであり、減薬の進め方も難しくなるが、この恐怖についてHealyは認知療法などの心理療法の有効性を指摘している。
さて、依存性物質への依存と嗜癖(アディクション)は混同されやすい。整理すると、一般に依存とは、薬物を中止した際に病的な症状や兆候を経験することを意味し、嗜癖とは物質を強制的に使用し、摂取の制限が出来なくなるという認知、感情、行動に及ぶ症候を意味する。2000年に欧州医薬品評価庁は、SSRIに伴う問題は、精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-Ⅳ)の物質依存の定義には当てはまらないこと、SSRIの離脱症状はユニークなもので、他の依存物質の離脱症状と混同すべきではないという見解を示していたが、離脱症状の報告が増えるに従い、これまでの依存・嗜癖の考え方とは相容れない新たな依存の概念が検討され始めている。
 次に、抗うつ薬の減量・中止の方法について述べると、基本的には緩徐に減量することが推奨される。どの位の用量を減らしていくのがよいか?はエビデンスが無い。幾つかの報告では、抗うつ薬の漸減は1ヶ月あたり総投与量の25%減量を目安に、4ヶ月かけて行うという提案もあるが、しかし離脱症候群を呈する患者がいることも事実である。他剤に置き換える方法もあるが、一定の見解は乏しいのが現状である。

辻敬一郎・田島治「抗うつ薬。気分安定薬の離脱に伴う問題と減量中止の方法」
-Vol.20,No.9Sep.2017臨床精神薬理より抜粋引用-

2017年09月01日
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