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2017-12-02

107.代替医療解剖:ハーブ療法の真実について。

ハーブ療法とは何か?どんな病気や予防にも、植物そのもの、または植物エキスを用いる。あらゆる治療法のうち、最も古い歴史を持ち、最も広く利用されているものと定義される。古くは、ペルーの先住民がマラリアを治療するために、キナノキの樹皮(キナ皮)を用いていた。1620年にイエスズ会の司祭がこのキナ皮の治療効果を知り、その20年後ヨーロッパのほぼ全域で高い値で取引されるようになった。1820年に、2人のフランス人科学者の努力により、キナ皮に含まれる成分のうち、有効性の高いものを単離して濃縮し、より効果的な形にして人々に届けることになった。その物質はキナノキにちなんで「キニーネ」と名付けられた。それ以降科学者たちはこの抗マラリア物質の効果を本格的に調べ上げて、人命を救う為に最も効果的な使い方が出来るようになった。同じように、今度はヤナギの樹皮に着目した。ヤナギは数千年にわたる鎮痛や解熱のために用いられていたハーブである。これも、有効成分を突き止め、ナヤギを表すラテン語「サリシン」と命名した。しかし、サリシンは有毒物質であることが判明し、科学者たちは天然の薬に手を加えて改良しようとした。サリシンは純粋な化学物質、あるいはヤナギの樹皮として摂取するにせよ、胃に重い障害を引き起こすことが知られており、この化学構造をわずかに変えてアセチルサリチル酸という分子にすると、その副作用をほぼ取り除けることを発見した。そして1899年、ドイツ、バイエル社「アスピリン」という名前でこの驚異の薬を販売した。このアスピリンは現在では、鎮痛効果以外にも、心臓発作、脳卒中、さまざまな種類のがんのリスクを引き下げることが示されている。一方マイナス面では、1000人に3人の割合で胃からの出血を起こすこと、喘息の発作を起こしやすくすること、さらに12歳以下の子供にアスピリンを用いることは勧められない。以上2つのの典型的な薬物について、その植物由来に触れたが、今日の薬理学のかなりの部分はハーブ療法から発展してきたことは常識である。中にはカビ(ペニシリウム)の胞子から作られた抗生物質「ペニシリン」という薬もある。ここで大切なことは、今日でも、ハーブ療法のかなりの部分が、代替医療と見なされているということだ。つまり、通常のハーブ療法と、科学的なハーブ療法は容易に区別することが出来る。特に重要なのは、科学者たちは、どのハーブエキスは安全で効果があり、どれは危険で効果が無いかを知るためにハーブが患者にどんな影響を及ぼすかを明らかにした。一方、代替医療のハーブ療法では、植物全体を使うか、もしくは植物のどこかの部位を全部使うことが大事だと言われることが多い。なぜなら、ハーバリストは植物全体を使うことで、部分よりも大きな効果が生み出せると信じているからである。ハーバリストはそれをシナジー(相乗効果)と呼ぶ。つまり、ハーバリストは植物を全体として使うことこそ理想的な薬のあり方だと今も信じているのに対して、科学者は、自然は出発点に過ぎず、よく効く薬を手に入れるためには、植物に含まれる成分のうち、治療に役立つ物を知らなければならない(そして時にはそれを操作しなければならない)と考えるのである。ここで、ハーバリストのいう、植物全体を使う代替医療のハーブ療法は、本当に効くのかということである。たとえば、代表的な薬草のセントジョンズワートの効果について検討した。1996年、23件の研究対象として、メタアナリシスが行われた。結果、「セントジョンズワートのエキスは、軽い物から中程度のうつ病に対して、プラセボを超える効果があるという科学的根拠を持つ」という結論に至った。ただし、重いうつ病に対しては、近年行われた幾つかのプラセボ対照試験によれば、ごくわずかな効果しかなかった。そこで、セントジョンズワートの有効成分を単離する試みがすでに行われている(ヒペルホリンあるいはヒペリシン)が、臨床試験を行ってみると、植物そのものを用いた場合ほどの効果はない。どうやら、セントジョンズワートの効果についてはハーバリストたちの主張する、幾つかの化学物質が互いに強め合って得られる相乗効果らしいのである。さて、ハーブ薬を使用するときの注意点をまとめると、以下の4点になる。

1.ハーブ薬の直接的毒性:すでに述べた「サリシン」のような毒性に注意すること
2.他の薬との相互作用により引き起こされる間接的反応:たとえば、セントジョンズワートには、現在服用中の薬物の効果と干渉する様な副作用がある。実際にスウェーデンやイギリスでは、経口避妊薬服薬中の女性には、セントジョンズワートの服薬を中止するべきという注意がなされている。これはハーブが避妊薬の正常な作用を妨げて、妊娠してしまった症例が数例報告されている為だ。
3.汚染および混ぜ物の危険性:ハーブ薬の中には、容易に検出できるレベルの重金属が含まれている場合がある。特に中華人民共和国からの植物性薬品の中には水銀塩を含む物、ア-ユルベーダに使われているハーブ薬の中には、許容範囲の200倍のヒ素を含むハーブ薬が検出されている例もある。さらには、期待された効果を出すために、わざと混入させた通常医療で用いられる薬を混入させている例もある。
4.ハーブ治療をする場合の経済的負担を考えると、通常医療にかかるコストと比べて、圧倒的に高額自己負担になる場合が多いことを忘れないことである。
とりあえず、ハーブ治療を受ける場合に、何より大切なことは、現在かかりつけの医師と十分に相談しておくこと、通常医療の薬を飲むことを独断でやめてはいけないことが大切である。

-Simon Singh,Edzard Ernst著「代替え医療解剖」より抜粋引用-

2017年12月02日
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