toggle
2018-03-11

109.うつ病の反応予測因子と薬剤選択について、

うつ病は、生涯有病率が6.5%と頻度の高い疾患である。現在日本では8種類の新規抗うつ薬が使用可能であり、その導入はうつ病治療に大きな恩恵をもたらした。しかし各患者の薬物応答は個人差が大きく、初回の抗うつ薬が有効である患者は50%未満であり、30~40%の患者は1年間の継続治療後も寛解に至らない。現在第一選択薬あるいは第二選択薬として最適な抗うつ薬を示すガイドラインはない。また、抗うつ薬治療が無効であると見なされ、変更するまでの期間も定まっていない。以下は提案できる抗うつ薬の適切な使い分けについて述べる。早期治療反応性(early partial improvemnt/EPI):治療反応予測の臨床因子として、早期治療反応性が指摘されている。これは2週間の治療でHAM-Dが20%以上の改善をEPIと定義する。6562名の患者の41試験をメタ解析した結果、EPIの5~8週後寛解・反応に対する予測因子としての陽性的中率はそれぞれ19~28%および43~60%、陰性的中率は95~100%および82~96%であり、ある抗うつ薬で2週間治療してHAM-Dが20%改善していない患者に対しては、同じ抗うつ薬を5~8週間継続しても95~100%は寛解に至らず、82~96%はHAM-Dの点数において50%の改善もしないことが示された。また別の14779名の患者の17試験のメタ解析の結果、抗うつ薬ごとには、三環系抗うつ薬とmirtazapineでの治療がEPIが高かった。EPIが最終的な治療反応予測因子となるかについて、陽性的中率は、mirtazapine(57%)、venlafaxine(66%)で最も高かった。一方偽陰性率はamitriptyline(8%)、mirtazapine(9%)、venlafaxine(9%)と最も低く、このことはこれらの薬剤治療に早期に反応しなかった場合、その後も反応はほぼ望めないことを示唆している。また、EPIが最終的な寛解予測因子となるかについての陽性的中率は、paroxetine(31%)、escitalopram(62%)、と高く、偽陰性率はmirtazapine(6%)で最も低く、sertraline(37%)で最も高かった。つまり、抗うつ薬間で比較した場合、特にmirtazapineにおいて、EPIの有無と最終的な治療効果との相関が高い薬剤であることが示唆される。うつ病サブタイプ:メランコリー型うつ病、不安型うつ病、非定型型うつ病などのサブタイプにより、治療効果に差があるかという研究では、現在のところ、サブタイプの薬剤選択における臨床的有用性、つまり特定のサブタイプが、ある治療で症状改善に良好なパターンを示すというエビデンスは乏しく、サブタイプは薬物選択において有用とはいえない。社会経済的因子:抗うつ薬反応の予測因子として、社会経済的要因の研究では、抗うつ薬治療にマイナスに作用する要因として、低収入、低学歴、非コーカサス人種、若年でのうつ病発症、高齢、婚姻状態、男性があげられている。また臨床要因として、身体症状、アルコールあるいは薬物使用の合併、非定型、メランコリー型、不安症状、パーソナリティー障害、うつ病罹病期間が長期であること、精神的あるいは身体合併症が指摘されている。2876名のSTAR*D研究では、良好な治療反応性と最も関連した因子は学歴(教育年数14年以上)であり、治療反応不良と最も関連した因子は無職であった。一方、寛解の最も強い予測因子は収入(年収40000ドル以上)であり、寛解不良と最も関連した予測因子は、活動への無関心および入眠障害であった。個々の因子は小さいものの、組み合わせることでより正確に治療反応性を予測でき、社会経済的要因は抗うつ薬治療結果に大いに影響を与える。

高橋一志ら、「うつ病の反応予測因子と薬剤選択」臨床精神薬理Vol.21No2.2018より引用

2018年03月11日
関連記事