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2018-10-31

118.社会保障切り捨て日本への処方箋、絶対的医師不足について、その1。

 医師の不足が叫ばれてから久しい。そして、日本では医療体制だけを改善することは、困難である。日本政治が抱える「クレプトクラシー(収奪・盗賊政治)」という問題を認識して、多方面で様々な活動をしていく必要がある。Follow the moneyという言葉はスタンフォード大学フーバー研究所の西鋭夫教授の言葉であるが、医療費抑制・原発再稼働・東京五輪、またマイナンバーや安保関連法案にも、すべて金(予算≓税金)がついて回る。血税をどう振り分けるかはまさに政治であるが、医療費抑制・原発再稼働・東京オリンピック・築地移転・リニア新幹線・辺野古基地移設で一体だれが得をするのか、「金」の流れを見ていくと良くわかる。世界一の高齢社会となった経済大国日本の医師数が、先進国最小となったルーツを探ると、1983年に厚労省保険局長が唱えた「医療費亡国論」に起因することが判明する。現在に至っても、厚労省や大手メディアは医師不足の原因は医師の偏在にあるとしているが、OECD(経済開発協力機構) の人口あたりの医師数のデータは、日本が最小であるという事実は隠せない(医学部卒業生人数1990年を100すると、2011年は日本95、オーストラリア250、イギリス200、デンマーク190、カナダ165、アメリカ125)。「医療費亡国論」という言葉に象徴されるように、我が国では社会保障予算は先進国中で最低に抑圧される(社会保障給付費を対GDP比で見ると、日本13.1%、アメリカ14.5%、ドイツ28.2%、スウェーデン32.0%)、一方公共事業には莫大な予算が投じられてきた。その事実を国民に知らせず、社会保障費が財源赤字の原因とされてきた。さすがに1990年中頃から、先進国最高だった公共事業も削減が開始された。しかし時すでに遅しで、それまで野放図に作り続けてきた道路や橋梁等のつけが回り、国交省はこれらの維持管理・更新にかかる費用を、2013年3.6兆円、2023年には4.2~5.1兆円に膨らむと推計している。
 ショックドクトリン」というナオミ・クラインが2007年に書いた本がある。惨事便乗型資本主義つまり、大惨事につけ込んで実施される過激な市場原理主義改革のことを言うが、シカゴ学派のミルトン・フリーマンが唱えた手法である。アメリカ政府とグローバル企業が戦争・津波・ハリケーン等の政変や自然災害などの危機につけ込んで、あるいはそれを意識的に利用して、人々がショックと茫然自失から目覚める前に、およそ不可能と思われる過激な経済政策を強行することである。シカゴ学派は投資家の利益を代弁し、「大きな政府」「福祉国家」を攻撃し、国家の役割は警察など最小限にして、他は全て民営化し市場原理にゆだねよとした。では、日本版ショックドクトリンとはなにか。政府は東北震災復興のため、2011年から5年間で19兆円が必要と試算し、所得税・住民税・法人税増税を決定した。所得税は2013年1月から25年間2.1%上乗せ、法人税は2012年4月以降、3年間減税をした上で、税額の10%を追加徴税、住民税は2014年10月から10年間年1000円も引き上げた。ではこれらの復興予算がどのように使われたのか、ふたを開けてみると、本来被災地のがれき処理や生活再建に限定されるはずの予算が、沖縄の国道整備事業6000万、海外の青少年被災地視察72億円、被災地以外の中小企業設備投資補助金2950億円、被災地以外の道路整備や官庁施設、公務員住宅の耐震化という全国防災名目4827億円、さらに反捕鯨団体「シーシェパード」による妨害活動対策23億円などに流用されたことが明らかになっている。さらに、北朝鮮ミサイル危機を煽り、2017年97兆円の予算を組んだものの、社会保険費は5年で3.4兆円の機械的削減、軍事費は過去最高の5.1兆円の増額となった。これらショックドクトリンで膨大な予算が関連企業や官僚天下り先へ、そして政治献金として政治家の懐に還流する一方、生活保護引き下げに象徴されるように、声を上げにくい弱者への予算はさらに引き下げる実態が見えてくる。
本田宏著「社会保障切り捨て日本への処方箋」-より抜粋引用

2018年10月31日
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