toggle
2019-02-27

122.精神科医療における過量服薬の問題について、

2000年以降、過量服薬は一貫して救急医療資源に圧迫を与える深刻な問題である。
2010年以前の救急医療機関に搬送される過量服薬者の大半が精神科通院中の者であり、地域の精神科クリニックが増えると同時に搬送される過量服薬患者増加したという報告があり、これは救急医療現場における精神科医療に対する不満を高めた。幸いなことに2010年に、国が過量服薬対策に本格的に動き出して以降は、緩やかに減少傾向にある。診療報酬減算による多剤処方の抑制施策、さらには自殺未遂者企図防止プログラムの開発なども相まって、過量服薬者の減少に貢献した可能性がある。ここで過量服薬を理解するために、自己切傷や自殺未遂、さらには物質使用障害との関連を整理する。
1.過量服薬を理解する:故意の自傷としての過量服薬
まず明確にしておくことは、過量服薬=自殺企図とは限らぬことである。生徒を対象とした過量服薬経験者調査に依れば、「辛い気持ちでから解放されたかった」(72%)「死にたかった」(66.7%)「自分がどれくらい絶望しているのか示したかった」(43.9%)など。この結果は自殺以外の目的から過量服薬をしている者が存在することを示した。実際、大学救命救急センターに入院するほど重篤な過量服薬患者でさえ、半数は自殺以外の意図から過量服薬に及んでいる。複数選択可のアンケートで、「自殺」(50%)「不快感情の軽減」(50%)「眠るため」(10%)「自分を罰するため」(5%)という結果が得られている。     
2.過量服薬の特徴-自己切傷との共通点・相違点
一般人口に認められる「故意の自傷」DSH(deliberate self-harm)行動として、過量服薬はリストカット等の自己切傷についで2番目に多い方法である。Hawtonらの学校調査では、過去1年以内にDSH行動に及んだ経験のある生徒のうち、55.3%は自己切傷、21.6%が過量服薬を行っていた。さらに過量服薬と自己切傷はしばしば同一人物に認められていた。医療機関の調査で、自己切傷の経験のある女性患者の67%に過量服薬経験があり、過量服薬患者の70%に自己切傷経験があった。
過量服薬と自己切傷の共通点・相違点について:自己切傷と過量服薬のいずれも、最も多い動機は「辛い気持ちから解放されたかった」という不快感情の緩和であった。2番目は、自己切傷では「自分自身を罰したかった」であるのに、過量服薬では「死にたかった」である。
過量服薬の防止
過量服薬を防止するには、まず過量服薬をするリスクの高い患者に対して、過量服薬されやすい薬物、或いは過量服薬時に生命的に危険な薬剤を処方しないことが重要である。以下ハイリスク要因の患者をあげると、(a)自己切傷・過量服薬の既往(b)物質使用障害の存在(c)パーソナリティー障害の存在(d)摂食障害の存在(e)トラウマ関連障害の存在(f)家族と同居していない、同居していても無理解や陰性感情に曝されており、本人が主観的に孤立無援感を抱く(g)直接・間接に深刻な暴力に暴露された経験を持つ、等の者があげられる。この中で特に重要な要因として、(d)摂食障害、(e)トラウマ関連障害の存在である。また、過量服薬された薬として多いのはBZD類(フルニトラゼパム・エチゾラム・ゾルピデム)等の安定剤・睡眠剤である。さらに市販薬・サプリ類の中で、特に注意すべきは、カフェインの過剰摂取であり、急性カフェイン中毒の救急搬送が増加しているという報告がある。
-松本俊彦「精神科医療における過剰服薬の現状と課題」臨床精神薬理Vol.22,No.3,2019より抜粋引用-

2019年02月27日
関連記事