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2019-08-03

127.「偏食避けてうつが改善」について、

X県在住のYさん(38)が職場で体調を崩したのは、2017年のことだ。長く勤めた会社を辞めて、その次に働いた会社での出来事だった。「言葉がきつい人たちばかりで、とにかく否定ばかり」。そんな状況がしばらく続いた後で、上司や先輩から何か言われただけで、涙が止まらなくなった。職場のストレスが原因と考えた。うつを疑って、病院を受診すると、診察時に行った血液検査で意外なことが分かった。「フェリチン」といわれる鉄を貯蔵する蛋白質の値が低い。フェリチン不足は体内で鉄が欠乏していることを示し、この場合脳内ホルモンがスムーズに生成されにくくなるといわれている。診察したZ医師によると、鉄や亜鉛、マグネシウム、ビタミンB群、コレステロール、ビタミンDなど、多くの栄養素とうつ症状は関係する可能性があるという。当時Yさんはメン類や丼ものなど炭水化物を好んで食べる偏食を長く続けてきた。Z医師の指導の下に職場のストレス対応をしながら、肉、魚、野菜を中心にした食生活に変え、フェリチンの値を少しずつ上げた。2度にわたる休職もあったが、2018年秋には完全に復職した。東京都の国立精神・神経医療研究センターの K医師は、「栄養状態を改善し、うつ症状も改善するというのは、21世紀になって広がった考え方です」と述べる。K医師によれば、栄養とうつの関係について、国内外で多くの論文が発表されている。K医師らの鉄欠乏に関する論文では、うつ病患者1000名と、うつ病ではない10879名の比較研究において、鉄欠乏性貧血になったことのある人の割合は、うつ病にかかった人で20.3%、うつ病にかかったことがない人たちで14.4%と開きがあった。また別の調査では、ビタミンB群の一種、葉酸の欠乏について、健康な人で5~10%程度、うつ症状のある人で20~30%程度が不足していたという報告がある。
 ここで、これらのメカニズムについて少し補足してみる。というのは、うつ症状が出現すると、食欲の低下傾向が現れることが多い(逆に過食もあるが)。つまり食生活が乱れる傾向がある。このため、うつ病の結果として、食事が偏りを起こし、その結果として貧血が出現したと考えることもできる。つまり食生活の偏りを是正して、うつ症状が改善することはあり得るが、うつ症状が改善すると、食生活も改善して行くことは日常診療上、しばしば経験することである。そして、うつ病は徐々に発症してくる病気であり、うつ症状が悪いために偏食が出てしまう、偏食が出ためにうつ症状に影響が出るという悪循環に陥っている可能性もある。
栄養改善によるアプローチは、60年代にカナダの精神科医が提案したことが始まりである。が、「現在もまだ浸透している治療法とはいえない」。「うつは一つの原因だけで発症する病ではない。その点も踏まえて、睡眠や運動などの指導とともに治療方法を検討するべきである。ただ、食事による治療はもっと注目されてもいいと思う」(K医師)。医食同源という考え方がある。健康的な食生活が、身体、あるいは精神に与える影響は大変に大きいと言うことは、今更言うまでも無い。
--「アエラ」5,Aug,2019の記事から抜粋引用した--

2019年08月03日
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