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2019-12-02

131.難治性うつ病を治すために、その1。

難治性うつ病とは、十分な薬を一定期間使用しても回復しない患者さんを指しており、特に2年以上経っても回復しない場合を慢性うつ病と呼ぶ。さて「難治性」の原因は何か。これまで言われていた原因は、1)うつを発症してから受診するまで時間がかかった、2)解消できないストレスが続く、3)またアルコールや薬物依存がある、4)うつに陥りやすい体の病気があるなどでした。他に、5)不十分な薬の使い方、6)病状に合わない薬が処方されている、7)多剤・長期に薬を使いすぎなどがあげられる。それと共に、患者さん本人が治らないとあきらめており、「障害者だ」「一生このままだ」などと生きていく気力を無くしていることが多い。また、休養の取り方の問題、つまり休みすぎということ。体力と気力が衰えて、動けなくなっている。更には、実はうつ症状は2次的に発症したもので、子供の頃から失敗や叱責が多く、自己否定的になっている。コミュニケーションが要求される現代、社会に出て不適応を起こしていることもある-つまりベースに発達障害が隠れていることがある。また、双極性障害が潜んでいることもある。
 さて、難治性うつについて、新しい視点から、患者さんの心理状態を考えてみると、自己愛-自分を大切に思う気持ちが健全に保たれているかどうか、健康な人でも「自分はこれで良い」と思える気持ちがないと、落ち込む。反すう-休養していても、実は過ぎたことや未来のことをクヨクヨ考えているのではないか、これでは脳や心は全く休んでいない。抑うつアルゴリズム-うつが治るということは落ち込まなくなることなのか、元気いっぱい明るくなることを目指して、できない自分に絶望していないか。学習性無力感-何をやっても治らないと思い込んでいないか、無力感から回復をあきらめ、絶望的になっていないか。心のエネルギー-うつというのは元気がなくなる病気だが、心のエネルギーがすっかり失われているのかどうか、ということ。
 ここで、まず「心のエネルギー」の問題について考えてみる。従来うつは、心のエネルギーが枯渇して、考える力や感じる力も失われている。最近の慢性化したうつでは考える力や感じる力が保たれていることもある。長年うつ病が治らないと、元々の自分がどういう人だったのか、分からなくなってしまう。回復後の自分が分からないので、どこに向かって進めば良いのか分からなくなっている。起きていてもやることがない、自分なんて役に立たない、嫌なことを考えてしまう、起きていると辛い、などの現実逃避から寝てしまうことを積極的に選ぶ。「起きよう、起きなくていけない」と思わなければ回復への一歩は踏み出せない。「学習性無気力」とは、どうせ治らないとあきらめている状態を言う。治りにくいうつの方は希望をなくしている人が多い。ストレスの研究ではストレッサー(原因) を自分ではどうにもできない、コントロール不能な状況が大きな苦痛になることが分かっている。ストレスがあっても自分でコントロールできれば、心は折れない。うつが治らないのは病気をコントロールできないため。何をしてもムダと学び続けるので、絶望感は深くなる。この結果、自分で何とかしようという意欲がなくなり、回復を医師や周囲の人に任せてしまう。何をやってもムダという認識を形成した場合、学習に基づく無力感が生じ、それはうつ病に類似した症状を示す。
「抑うつアルゴリズム」とは、少し抑うつがあるほうが、正確な判断をして、世の中を冷静に見ているという説である。健康な人は、少し楽観的に偏っており、実際以上に物事を自分でコントロールできると錯覚している。うつが長引くうちに、何が治るということか分からなくなる状態で、落ち込むことはダメだと思い込み、元気いっぱいになれない自分を否定してしまう。しかしそのとらえ方こそ、うつ病からの回復を妨げる一因になっている。抑うつに陥りやすい人は、物事を実際以上に悲観的に見るネガティブバイアスの傾向がある。

田島治監修-なかなか治らない難治性のうつ病を治す本-より抜粋引用

2019年12月02日
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