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2020-07-01

138.ベンゾジアゼピン等の抗不安薬が認知症に関係するか?

1990年頃から、ベンゾジアゼピン等の抗不安薬は認知症のリスクを増やすという多数の報告がある。最近の研究で、これらの報告との違いがあるかどうか検証してみる。
Merete O.等の235465名のデンマーク人患者を調査した研究を紹介する。1996年から19年間の研究期間。対象者は20歳以上の、初発の感情障害の診断を受けた患者である。結果は75.9%の患者がベンゾジアゼピン系あるいはZ-drug系の投薬を受けており、追跡期間として中央値は6.1年(前後の期間は2.7年から11年まで)、9776名(4.2%)は認知症の診断を受けた。しかし、いかなるベンゾジアゼピン系あるいはZ-drugsの投薬を受けた患者も、コホート分析、あるいは集中的なケースコントロール方式で行われた多変数調整後の数値からは、認知症との関連は認められなかった。特にコホート分析においては、ベンゾジアゼピン系の薬の種類や蓄積量においても認知症との関連が認められなかった。ケースコントロール研究の場合、研究開始後2年間にベンゾジアゼピン投与が少ない人は、一度も処方を受けたことのない人と比べて、僅かに高い認知症オッズを認めた(odds ratio=1.08)。けれども量の多い投薬を受けた患者では、認知症発症のオッズは低かった(odda ratio=0.83)。
詳しく述べると、対象とした患者背景は、235465名中、女性144002名、婚姻状況、教育歴、うつ症状のタイプ、投与受けたベンゾジアゼピンの種類など、細かく分類した。感情障害患者の75.9%がベンゾジアゼピン系あるいは、Z-drugs(非ベンゾジアゼピン系薬剤zopiclone,zolpidem,eszopiclone,等)の薬の投与を受けていた。最も多かったのは、zopiclone,oxazepam,diazepamであった。ベンゾジアゼピンやZ-drugsは中年の患者に多く使われていた。これらの人は、単一の疾患、あるいは再発再燃の患者、抗うつ薬併用された患者が含まれた。平均追跡期間は6.1年、9776名の患者が認知症と診断された。認知症患者の多くは、70歳以上の高齢者、教育歴が短い人、寡婦、あるいは糖尿病,心血管系の病気の合併症が見つかっている。各種の ベンゾジアゼピン系、あるいはZ-drugsを投与された患者も、社会要因や臨床症状のバリエーションがあっても、コホート分析やケースコントロール方式での数値からは認知症との関連は認められなかった。そしてコホート研究では、研究参加当初の2年の間は、ベンゾジアゼピン使用者は認知症リスクが低いことが判明した。ベンゾジアゼピンあるいはlong-acting drugを服用する患者はZ-drugsあるいはshort-acting drugsの服薬している人よりも効果はやや弱い。更に言えば、認知症について、ベンゾジアゼピン系列の薬を服用する患者とZ-drugsを服用する患者の効果の違いははっきりしなかった。
ディスカッションとして、これまで多くの研究論文がベンゾジアゼピン系の薬は認知症を引き起こす危険因子であるとして論じられてきた。しかし2017年Swiss case control studyや、2016年薬理データを使ったコホート研究USAによると、ベンゾジアゼピンやZ-drugsと認知症の間には何ら関連がないという結果が示されている。今回の我々の研究でもこれらの研究と同様の結果である。要約すると、老年者、強い不安症状・睡眠障害を持つ患者には、ベンゾジアゼピンやZ-drugsの比較的短い期間の使用を勧める。この際に認知症になるという恐れは抱かなくてよいと考える。
-Merete Osler et al. 177:6,June 2020,Am J Psychiatryより抜粋引用-

2020年07月01日
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