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2021-01-31

145.「薬は怖いから頼りたくない」という思い込みについて、

恐怖をあおるセールストークにダマされないこと。
「血圧の薬は飲み始めると一生やめられないんでしょう?私は薬に頼るより、この製品を毎日、こつこつ続けています」穏やかな表情の高齢者がカメラに向かって語りかける。「薬は怖いから頼りたくない」というフレーズはテレビの司会者、タレント、コメンテーターのセリフでおなじみです。しかしこれ、非常に誤解を招く表現です。血圧が高いと心筋梗塞、脳梗塞などの危険が高まリますが、血圧を下げる薬を使うと、発症率が低くなることは、多くの信頼できる試験で確認されております。つまり、これらの方は薬を飲むことにより、大きな恩恵を得られるから飲んでいるのであって、薬に「頼っている」わけではありません。さらに、血圧を下げる薬を飲み始めても、中止できることがあります。これまでに報告されたデータによると、治療する前の血圧がそれほど高くなく、比較的若くて、肥満しておらず、飲酒せず、食事に気をつけている人は薬をやめられる確率が高いようです。もちろん薬を中止してからも生活習慣に気をつけて、定期的な経過観察を行います。その結果、全体のおよそ40%位の患者さんが薬を飲まなくても血圧を基準以下で維持できるようになると考えられております。「薬に頼るな」という言葉は、本来、薬を飲んでいることに甘えて生活習慣を正そうとしない人を戒めるためのものでした。いうまでもありませんが、自己判断で薬をやめるのは絶対にいけません。
 「薬は怖い」という言葉は別の意味でもくせ者です。セールスの世界では、人を説得するには理詰めで諭すより、感情に訴えかける方が有効だというのが常識です。体験談もそうですが、その製品を使うと悩みが解決するという、「良い情報」を提示します。もっと効果があるのが、危険や恐怖を連想させる「悪い情報」を植え付けることです。たとえば「この製品を飲むと体調が良くなります」というのと、「薬は怖い。使いたくないから、この製品を飲んでいます」というのでは、どちらが印象に残るでしょうか。
 300万人のツイッター利用者が伝え合った126000件の話題を分析した研究からは、間違った情報には目新しい内容や、恐怖、嫌悪、驚きなどの感情を引き起こす内容が多く含まれ、正しい情報より6倍速く拡散することが明らかになっております。
簡単に言えば、「なじみのない恐怖」は人の関心を強く引きつけるということです。その恐怖から逃れたい一心で、目の前に差し出された健康法にすがりついてしまう人もいるでしょう。このように、危険をあおって相手を不安にさせ、その不安を解消するための提案をして利益を得ることを、マッチポンプと呼びます。マッチで火をつけた人が、ポンプを使って自分で火を消すという意味で、日本で出来た言葉です。薬は怖いと消費者に思わせて、「どうしたらよいのか」と不安になったところへ、すかさず「この製品を使えば薬を飲まなくても済むのですよ」と売り込んでいるのです。
「薬は怖い」「市販の食品は危険だ」のように、不安をあおって、その不安を解消できるとうたって製品を買わせる販売手法があります。
 軽率な自己判断はくれぐれもなさらぬように、ご注意ください。

   -奥田昌子「なぜ、健康法は「効かない」のか?より引用-

2021年01月31日
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