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2021-05-04

148.考えすぎない人の考え方について、その1、

  ヒトは考える力を持っている。しかし考えすぎると迷って決断できない、思い悩んでしまうという弊害を生じることもある。近年このような思考と行動にまつわる研究が進んでおり、心理学、脳科学、言語学、社会学、行動経済学など、様々な分野で考えすぎてしまうヒトとそうでないヒトの違いが明らかになってきた。
現世人類が生まれてから20万年、今では技術、テクノロジーは大きく進化し、ヒトの生活も大きく変わってきた。しかし全く変わらぬことがある。それは、我々の行動原理である。簡単に言うと「生物が何に突き動かされているか」ということ。それは進化心理学的には、人は皆「不安」によって動くといわれている。数十万年前には日用品も鉄筋コンクリートに守られた家屋や家電製品もなく、少しのことで命を落としかねない環境であった。たとえば今なら消毒して絆創膏を貼れば十分な傷でも、細菌感染を起こして亡くなったヒトも多かったことであろう。気を抜くと死ぬ環境なのだ。日常の僅かな変化や違和感にも注意し、それが危険かどうか見極める必要があった。では、命をなくす危険が少なくなった時代に、我々は何を不安に思うかといえば、仕事がうまくいかない、人間関係のトラブル、将来のお金のこと、新型コロナ感染のニュースを聞いてイヤな気分になる等。「中世のヒトが一生で得ていた情報を一日のうちに得ている」と言われるほど情報量の多い現代では、先のわからない未来や他人の言動、あるいはネガティビティー・バイアス(ヒトはネガティブな情報を優先的に注目する特性)等が我々の不安を煽るのである。そもそも生物の進化というのは何万年もかけてゆっくりと行われるが、急激な文明の発達はここ数千年の話であり、人類20万年の歴史からするとほんの数分前の出来事にすぎない。この状況にヒトの進化が追いつけるわけがなく、脳も身体もまだまだ順応出来ていない。「不安にならないようにしよう」としても難しい。むしろ「不安とうまく付き合っていこう」と考えるほうが現実的であろう。しかし、そんな中でも大きな成果を上げて活躍するヒトもいる。たとえば、戦国武将や現代のやり手ビジネスマンなど。「不安にならない」ヒトはいないけれど、彼らは不安のエネルギーをポジティブな方向に変換して、他人が行わないようなことをしているヒトたちである。
さて、不安の対義語は何か?答えは「安心」。安心とは心が満ちている状態を言うが、この感覚は「幸せ」や「幸福」とも呼ばれる。「幸せとは何か」という問の答えはヒトにより様々である。では「どうすれば幸せになれるか?」という問に科学者はどのように答えるか。ハーバード大学の心理学者キリングワース&ギルバートによれば「幸福に必要なことは心身が集中することである」(Science)と答えている。5000名を対象とした実験の結果、46.9%のヒトが「何かしているときに、そのこととは関係ないことを考えている」ことがわかった。そして今やっていることと考えていることが違うときは、一致しているときよりも幸せと感じていないという結果が明らかになった。つまり、目の前のことに集中できていないときには、幸せを感じづらい。集中している時には幸せを感じやすいということである。スタンフォード大学やグーグルが導入したマインドフルネスも、深い呼吸に意識を集中させ、余計なことを考えないことで心身をリセットする目的がある。「煩悩を捨てる」とうのは、言い換えれば「意識を今目の前に集中させる」(そうすれば余計なことは考えなくなる)ということである。キーワードは「一所懸命」。方法は一つ。ともかくその作業を始めること。
-堀田秀吾「考えすぎない人の考え方」より引用-

2021年05月04日
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