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2021-06-01

149.考えすぎない人の考え方について、その2,

   前回は、不安と安心について話した。今回はその続きです。
集中する、ということは頭を使うことだが、考えている時はすごくエネルギーを使った感覚になる。しかし、近年の脳科学研究では、「脳は忙しくしている時よりも、何もせずボーッとしている時の方が2倍のエネルギーを使っている」ことが判明している。脳のこのような機能は「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれ、何もしない安静時に活動が活発になる脳の領域がある。集中している時とボーッとしている時の違いは何処にあるのか?集中している時は関係している脳の部位が活発になるが、ボーッとしている時はエネルギーが全体に分散される。特定の部分に集中していたエネルギーが多くの場所に届くことにより、有機的な「つながり」が生まれてくる。これにより新しい発想、いいアイデアが瞬間的にひらめく。行き詰まっていた問題に解決方法が見つかる。そのためには一旦離れてみるなどの緩急が大切である。
次いで選択の問題がある。人生は選択の連続といわれるが、いかにうまく選択し、決断するかを見ていく。選択するには情報を出来るだけ集めて、最もいいと思う方法選びたいと考えるものだ。しかし情報が多すぎると、今度は情報に振り回されたり、検討時間がありすぎると
、小さなことにこだわり、正しい選択が出来なくなるという実験がある。短時間で決めた結論が、案外正しい選択をする場合がある。それは時間がない分、情報に優先順位をつけて合理的に選択できたのではないかと考えられている。ただ、人生にとって大事な判断は簡単にはできないことが多い。たとえば転職など。こんな時ヒントになる研究がある。シカゴ大学経済学者(スティーブン・レビィット)の報告で、人生の重要な選択の場面において、自分で決断できない人はどうすべきか?という調査をした。あるウェブサイトに「コイン投げサイト」を作り、閲覧者が「今決めかねていること」を書き込み、表が出たら「実行」裏が出たら「やめる」というシンプルなメッセージが出るサイトを作った。1年で4000人の悩みを収集して、コイン投げの決断により人生がどう変わったかを追跡調査した。結果ユーザーの63%がコイン投げの結果に従って行動していた。さらに驚きは、コイン投げの結果が表でも裏でも、悩みの解決に向かって何かしら行動を起こした人は半年後の幸福度が高いことが判明した。つまり決断においては、どう決めるかではなく、そもそも決められるかどうかの方が重要なのだ。決めた方向で腹をくくることが結局人生の満足度を大きく左右する。
さて「人の悩みの90%は人間関係である」と言われるが、これにまつわる研究がある。ハーバード大学成人発達研究の調査(ビェイラントら)で、ハーバード大学卒業の男性と、ボストン育ちの貧しい男性の2グループ(約700名)の追跡調査である。75年間の追跡期間で幸福度とその要因について調べた。結論は家柄、学歴、職歴、家の環境、年収や老後資金の有無ということではなく、人の幸福度と健康に直接的に関係があったのは人間関係だったという結果になった。対人関係がうまくいっている(信頼できる人がそばにいる)状況では、緊張がほどけて脳が健康に保たれる、心身の苦痛が和らげられる効果が見られた一方で、孤独を感じる人は病気になる確率が高く、寿命が短くなる傾向も見られた。つまり「お金持ちになれば幸せ」であるとか、「ステータスの高いパートナーがいれば幸せ」ということは全く無関係であった。また、愛知医科大学(マツナガら)の研究では、ライフイベントがネガティブな物であっても、明るくハッピーな友人がいる人は幸福を感じる傾向にあることも判明した。ビェイラントらの研究から、人生の最終的な勝ち負けなんていう物はなく、財産も、恋愛も、肩書きも、ステータスも全て束の間の不安を遠ざける物に過ぎず、本質的には問題を解決してくれないことが判明した。
良好な人間関係が幸福に繋がる話からの続きで、人間関係に「信用」や「信頼」はつきものである。さてオックスフォード大学(カール&ビラリ)の研究によれば、「知能の高い人は人を信用しやすく、そうでない人は信用しない傾向がある」という。調査結果はスコアの高い人は低い人に比べて信用する度合いが34%高くなっていた。この結果は経済力や学歴、パートナーの有無など他の要因は関係ない。この背景として、知力の高い人は観察力が優れているので、人を見抜く能力が高い、またその力により信頼できる人を選んでいるので、人を疑う必要が無いという説明がなされている。人を信頼するというのは非常に高度な活動である。
余談であるが、老化と記憶の話を一つ紹介する。
理化学研究所(木村ら)によると、マウスを使った実験で、過去の記憶を長時間思い出すと、その記憶が脳にしまわれる時に「タウ」タンパク質が蓄積され易くなることを明らかにした。このタウ蛋白質は、脳に蓄積すると記憶障害を引き起こし、アルツハイマー病の脳ではこのタウ蛋白質の蓄積が多く見られることがわかっている。これまで、タウ蛋白質は年齢を重ねるほど蓄積量が増えることはわかっていたが、その理由がわからなかった。この研究により、年齢を重ねるほど経験が増えて、過去を思い出す機会が多くなるために、タウの蓄積量が増えるのではないかと考えられている。しかし、何でもかんでもい新しいことにチャレンジする必要は無いが、脳を健康に保つにはある程度新しい刺激も大切なことなのだ。それは体験であったり人間関係であったり、時には新しい風を吹き込むことが必要である。新しい行動をすると古い記憶は忘れていくということ、過去を生きるのではなく今この瞬間を生きた方が良いというのは脳の観点からもいえることである。古い記憶は新しい記憶により上書きすることが出来る。だから行動が重要となる。
-堀田秀吾「考えすぎない人の考え方」より引用-

2021年06月01日
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