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2021-07-01

150.大人の発達障害について、

  「子供の頃から友人が少なくて、団体行動が苦手。クラスの人気者とは対極にいました」と話すのは、発達障害について記した漫画「なおりはしないが、ましになる」」の作者、カレー沢薫さん。自分の中で勝手に思考が進み、時折突飛な発言をして周囲に驚かれたこともあったが、学校生活に支障は無く、成績はむしろいい方であった。ちょっと人見知りだが、内向的な性格の範疇と思って生きてきた。本当に生き辛さを意識したのは、会社員になって働き始めてからである。「仕事をみんなでやるという発想が出来なくて、コミュニケーションも苦手。いつの間にか孤立して、何かあっても報告できず、一人で抱え込んで、限界を迎えて辞める。その繰り返しでした」 同じような状況に何度も追い込まれて、自分の障害を疑ったこともあるが、職場を休んで受診するまでには至らなかった。会社を退職して漫画の仕事に絞ってから、違和感が高まった。仕事がはかどらず、部屋も荒れ放題、ストレスがたまり「何かがおかしい」と感じた。そこで、漫画の取材もかねて、都内のAクリニックを訪問した。カレー沢さんは検査を受けて、ASD(自閉症スペクトラム)とADHD(注意欠陥・多動性障害)を合併したグレーゾーンと診断された。カレー沢さんのように、学生時代は表面化しなかったが、社会に出てから発達障害の特性に気づくケースが多い。
発達障害は大きく2つに分けられる。
1番目は、ADHDで、大人の場合、多動性は目立たなくなるが、物忘れやケアレスミス、カッとしやすいなどの特徴がある。このタイプは投薬治療が奏功するケースもある。2番目は、ASDであり、場の空気や暗黙のルールがわからない、人とのコミュニケーションが不得意、物事にこだわる、感覚過敏などの特性が残る。発達障害はうつ等の2次障害を発症しやすいことも、国内外の調査で判明している。発達障害による生きづらさや対処法などを、当事者同士で語り合うピアサポートの場も広がりつつある。
カレー沢さん曰く、診断を受けても、自分の性格もあるのに都合の悪いことを「発達障害」のせいにしているのでは、という思いはある。しかし、自分のことがわかって、少し楽になった。気を付けているのは、「気の散りやすさ」。執筆に差し障るので、スマホやタブレットを目につかない所に置く等の工夫で状況はかなり改善したと思う。課題はコミュニケーションで、これまでの体験から、人に接すると迷惑をかけるのではないかという気持ちが強く、結局問題が起きて自己嫌悪という悪循環に陥るのではないかと思いつつ、人とは仲良くなってみたいという思いは捨てきれない。発達障害と診断されると、自分は劣っているという考えに陥りがちになるが、当事者会に参加して「自分だけじゃない」と分かるのはとても自信が持てると思う。
一方、職場における課題は残る。リクルートワークス研究所による2019年の調査によると、「10名に1名はグレイゾーンという指摘がある」とした上で、発達障害の職務特性を上げている。例えばASD傾向は「規則性や集中力を要するもの、膨大なデータの取り扱い」について、ADHD傾向は「発想力や単独で動き回る力」について能力を発揮しやすく、これらの人を雇用対象から外すと「企業経営に必要な人材が確保できない」としている。これからの組織作りは、各自の得手不得手を補い合う「人の組み合わせ」が鍵であり、実現には2つの条件があるという。まずは本人が得意・不得意を自己理解できていることが大切。次いで自分の特性や弱点を周囲に言いやすい職場であること。これは「心理的安全性」とも呼ばれ、米グーグル社が「効果的なチーム」に最も重要な要素であると発表している。心理的安全性の確保を必要とするのは、発達障害に限らずLGBT等の人たちも含まれる。またダイバーシティーやインクルージョンを本来の意味で進めるためにも、日本の企業はこうした組織作りにしっかりと取り組むべき時期に来ている。
-自分の特性を知ることから-アエラ2021.5.24より抜粋引用

2021年07月01日
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