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2021-12-02

155.発達障害と睡眠について,

   昨今、大人の発達障害が注目を浴びるようになり、診断を求めて受診するケースが増えている。そして、発達障害を持つ方は、睡眠障害を合併していることが非常に多いのである。注意欠陥多動症(ADHD)児の場合、25~50%が何らかの睡眠障害を抱えている。自閉症スペクトラム症(ASD)児でも睡眠障害の合併の割合は非常に高く、報告により幅はあるが、40~80%と、他の発達障害と比較しても高率に睡眠の問題を合併する。これらの研究のほとんどは小児を対象としたものであり、発達障害を持つ成人の睡眠研究は非常に少ない。この少ない研究であるが、成人においても睡眠の問題の傾向は小児と似ていることが報告されている。たとえば、ASDでは、メラトニンとの関連から不眠・概日リズム睡眠障害が多く、ADHDでは、ムズムズ足症候群、睡眠時無呼吸症候群、過眠症の合併が多いといわれている。今回はその中でも、睡眠外来で見ることの多い「眠れない」「日中眠い」「朝起きられない」という問題を中心に、特に発達障害を持つ青年期から成人の睡眠の問題を取り上げていく。但し、利用する文献は小児の報告が多いことを付記する。
「眠れない」にどう対応するか。
眠れない、と一口に言ってもその原因は様々であるが、ASDではとくに、睡眠に関連するホルモンであるメラトニンの影響が大きいことが数多くの研究で報告されている。治療としてメラトニン製剤投与により睡眠が改善することが数々の研究から示されており、ASDに対しても一定の効果があると思われる。しかしASDの不眠の場合、メラトニン分泌異常という生物学的な背景の他に、「眠り」に対してのこだわりが原因となっていることがある。「*時間寝なければならない」「起きてから*時間後に寝ることになっている」などのルールを作り、それを実行するために薬を調節して欲しい、という学生が受診したことがある。すでに種々の睡眠薬や抗精神薬を他院から処方されていたが、自分の考えているような睡眠時間のコントロールができず、「同じ睡眠薬を飲んでいるが日によって睡眠時間が違ってしまう」という。もちろん睡眠薬の調整で、毎日決まって同じ睡眠時間を得られる訳ではなく、本人の考える様な改善が得られるとは限らない。「眠り」について、本人が納得するような説明をするとともに、睡眠と日中の行動が大きく関わっているため、日中の過ごし方についても相談をした。日中の行動を適切なものに変えていく働きかけを行った症例である。一方ADHDの場合、単なる「不眠」の問題で来院されるケースは少ない。ADHDでは、「眠れない」という訴えであっても、そもそも「眠ろうとしていない」ことが良くある。ADHDの小児は、「寝ることへの抵抗」、つまり寝ようとしないことが睡眠の問題の一つとして揚げられているが、成人の場合、このような「抵抗」はないものの、「眠れない」と本人が述べていても、夜間にアレコレやってしまう、気がつくと遅くなっている、ということが睡眠の問題として多い。この場合、結果として概日リズム睡眠障害のような状態になっていることがある。寝るまでの行動について振り返り、時間の意識づけをどのようにするか等の指導が必要となる。
「日中眠い」にどう対応するか。
日中の眠気・居眠りの問題は、睡眠外来に受診する方の訴えの中でも非常に多い。その中でADD、あるいはADHDの合併のある方では、夜間十分に眠っているにもかかわらず、日中眠くて仕方ないという訴えが強い場合、睡眠検査をすると、過眠症の診断を満たす場合がある。また並行して心理検査も行うと、過眠症合併のADHDと診断できるケースもある。特にADHDは眠気の問題が非常に多く、睡眠潜時反復検査で睡眠潜時が短い(眠るまでの時間が短い)ことが、小児のADHD研究から示されている。ADHDは古くから覚醒調節不全仮説が言われており、眠気と不注意の関係は非常に密接に関係していると思われる。なお、発達障害の場合、興味や関心により眠気が大きく変化するような、典型的な過眠症とは異なる眠り方をするパターンも多く、睡眠検査では評価できないような「眠気」の問題がある。

伊東若子「発達障害と睡眠」こころの科学No203/1-2019より抜粋引用

2021年12月02日
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