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2022-01-02

156..発達障害と睡眠について、No2

新年明けましておめでとうございます。今年こそ落ち着いた年にしたいですね。
さて前回は発達障害の方の睡眠につき、「眠れない」ことや「日中眠い」ことをどのように考えて対応したものか述べました。今回は「朝起きられない」にどう対応するかにつき、述べてみます。自閉症スペクトラム(ASD)の場合、「朝起きられない」と自らが困って来院することもあるが、実は本人は余り困っておらず、家族がなんとかしようとして連れてこられるケースが多い。20代の学生で、母親に連れてこられたケースである。「朝起きられず大学に登校できない」ということが主訴である。高校生までは、決まった時間に起床、登校、帰宅という一定の生活で、家族のサポートもあったため問題なかったが、大学に入り、日によって時間割も違うため、朝の起床時刻もばらつくようになった。出席が足りなくなり、単位を落としてしまい、そこで実は学校に通学できてなかったことを家族が知って、「朝起きられない」ということで家族に連れられて受診となった。もともとゲームが好きで夜遅くまでやって、寝る時間も遅くなり、朝の起床が困難になった。しかし、本人にまったく困り感や危機感はなく、睡眠を改善していく治療意欲も乏しい。大学に通い続ける意思もなかったため、結局、留年、退学となった。今後の生活に対して目標がなく、睡眠の問題を改善する目的もないため、効果的な治療が出来なかったケースである。このケースのように、今後の生活や活動をどうしていくかということを、検討しなければならない問題もあり、睡眠の問題は二次的なものであることも多い。また学校で適応できず、引きこもりのような生活になっていることも多い。さらにASDではもともと睡眠リズムの崩れやすさがあり、睡眠の問題を生じやすいという背景もある。われわれの生体リズムは24時間から少しずれた周期を示すため、24時間の昼夜サイクルに日々戻す必要があるが、その調節をしている物質の一つがメラトニンである。通常は夜間に分必量が増えて、日中に低下するパターンをとるが、ASDの場合、日中に増加し、夜間に低下するという逆のパターンを示すという報告がある。生物時計に影響の強いブルーライトを浴びると、そのタイミングと持続時間により、睡眠覚醒リズム障害を引き起こす可能性が高くなる。パソコンやスマホのモニターにはこのブルーライトが使用されており、通常発達の人にも睡眠覚醒リズム障害を起こしやすいが、ASDの場合、特にゲームやネット等を好む傾向が強く、夜間の使用により容易に昼夜逆転が起こりやすい。もちろんメラトニン以外にも種々の24時間周期の同調因子を利用している。光の暴露、食事、社会的接触などである。ASDの場合、社会的な接触が少なく、引きこもりがちな生活を送っていることが多く、社会的な同調因子が弱くなり、光の暴露も少なくなる。結果として昼夜逆転の睡眠リズムになりやすくなる。一方ADHDの場合には、寝る前の行動が結果として概日リズム睡眠障害を来しているケースがある。夜遅くまでアレコレやってしまい、寝ることが遅くなり、気がつくと昼夜逆転の睡眠リズムとなり、朝起きられぬパターンである。ADHDの場合、時間管理の苦手さや過集中傾向があるため、自分の好きなことに熱中して時間を忘れ、就床時刻になっても入床せず、すぐに昼夜逆転のりズムになってしまうケースが非常に多い。概日リズム睡眠障害の治療では、睡眠リズムの把握のため、睡眠日誌を記載して、受診時に持参してもらう。もっともADHDの場合、毎日の睡眠時間の継続的な記録が出来ないことが多い。記録が出来ても、受診時に忘れる、決まった時間に服薬できないということがよくある。なお、ADHDにおいてもメラトニンの位相のずれが大きいという報告がある。
伊東若子「発達障害と睡眠」こころの科学No203/1-2019より抜粋引用

2022年01月02日
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