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2022-06-01

161.やさしくない国-日本の政治経済学について

  2019年の秋、「Yahooニュース」に、こんな記事がひっそり掲載された。
「人助けランキング、日本は世界最下位」。
あるジャーナリストがホームレスが避難所に入ることを拒否されたことを受けて、ホームレスへの差別を問題化するために執筆した。この記事の中に出てくる「世界人助け指数」とは、イギリスのチャリティーズ・エイド財団により作成された物で、全世界の130万人以上の人にインタビューを行った。2009年~2018年までの10年間の総合ランキングで、日本は126カ国中107位-先進国の中では最下位であった。全世界の中の最下位は中国で、同じアジアの台湾は48位、韓国は57位であり、それでも日本より高評価を受けていた。別にこの指標を鵜呑みにするつもりはないが、日本人は果たして本当に人助けをしない、他人に優しくない国民なのだろうか。実際、先の東日本大震災の時に、日本の人々が結束して助け合う姿勢を世界中のメディアが賞賛していた。いやいや、そうした「思いやりの心」や「助け合いの心」が日本人にはあるはずではないか。今は新型コロナウィルルスが猛威を振るって、企業の倒産が相次ぎ、経済への甚大な影響が出ている。そんな中、ニューヨーク・タイムズ紙に、こんな記事が掲載されていた。「困難を乗り越える一番良い方法は、他人を助けることである」。人助けといっても千差万別で、いろいろ違った形の人助けを考えることができるだろう。「道ばたで苦しんでいる人を助けた」「困っている人のために募金や寄付をした」など。一般的にいって、自分のことを自分でやることは「自助」、自分や家族、あるいは本当に親しい人以外の他人を助けることは「他助」、政府などの公共機関を通じて他人を助けることは「公助」だとすると、日本は「他助」と「公助」が脆弱化して「他人に優しくない自助だけの国」になりつつあることが先のランキングである。これまでに、いろいろな国の学生に、「人生の成功が遺伝と環境の2つで決まるとしたら、どちらが重要だと思うか」と聞いた。成功の定義は難しいが、要はあなたの成功は生まれながらの性格や才能による物か、あるいは生まれ育った町や友人の存在という外的な要素なのかということだ。きちんとした統制実験が出来てないので、これが答えというものはない。目を引くのは、この質問に対して、国によって学生の答えが大きな違いが出てくることだ。例えば、アメリカでは50%以上は遺伝、つまり生まれ持ったもので自分の人生の成功が決まると考えていた。それに対してオランダでは、70%の学生は学校や友人など、育った環境要因が人生の成功を決めるはずだと答える学生が多い。日本でもオランダと似た答えが多かった。また、10年ほど前に行われた「世界価値調査」に、以下のような質問がある。「あなたの成功はあなた自身の努力の結果と思うか、それとも運などの他の要因によると思うか」この調査によると、60%以上のアメリカ人は努力の結果だと考えている。日本やオランダでは、45%の人しかそのようには考えていない。「人生の成功は自分がコントロールできない外的な要因により決まることが多い」と考えている。このように共通点が幾つか認められる日本人とオランダ人にも大きな違いがある。「思いやりの国」「おもてなしの国」という世間一般の評価とは逆に、日本人は困っている人を助けない、他人に優しくない国民なのだ。なぜだろうか?日本人は他人に関心がないから?他人を信用できないから?いずれにせよ、仮に日本の社会が外的な環境により、自分がいくら頑張っても望んだ結果にたどり着けない社会になっているとしたら、自分のことは自分でどうにかするしかない国になっているとしたら、日本の将来はいったいどうなるのであろう。
海外に住んでもう10年以上経つので、外国人の知り合いから、日本旅行のエピソードを聞かせてもらった経験がそれなりにある。概して日本はきれいで、現代と伝統のバランスが取れている等と言われると、誇らしい気分になる。中でもよく耳にすることは、日本では落とした財布が返ってくるという物だ。これは都市伝説的な噂話を気分よく話しただけかもしれない。他にも「アメリカと違って、震災や災害の後に暴動が起きない」「ボランティアが多く、人助けの精神が残っている」などは定型的な物だ。
しかし先の調査では、「人助け」は最下位、寄付の項目では64位、ボランティアの項目では46位となっている。上に書いた美談に反してこれらの調査によると、日本はどうやら「他人に優しくない国」らしい。
2007年行われたピュー・リサーチセンターの調査では、「政府は貧しい人々の面倒を見るべきだ」という項目に同意すると答えた人は対象国47のうちで、日本は最低の59%、スペインが最高で96%、ドイツでも92%という結果が出た。日本人の40%は自分自身助けないばかりか、政府も「他の困ってしまっている日本人を助けるべきではない」と考えている。しかしこれも納得しない人がいるかもしれない。例えば、日本人は「他の国と違う人助けをしている」など。チャリティーなどが盛んなアメリカなどと違い、多くの日本人にはそもそもチャリティーがなじみがないのかもしれぬ。もう一つの質問は「困っている見知らぬ人、あるいは全く知らない他人を助けたことがあるか」というものもあるが、もしかするとい日本人は、見知らぬ人ではなく、家族や友人、地域の住民など、知り合いしか助けない「内輪にやさしい国民」なのかもしれない。しかし、これも孤独死や自己責任論の高まりなどから推測するに、そうとは言い切れない。
-田中世紀「やさしくない国、ニッポンの政治経済学」より引用-

2022年06月01日
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