46.現在使われてる診断基準について、問題点はなにか?

   今、世界中で広く使われている診断基準は米国精神医学会の作った、DSM-ⅣTR(精神障害の診断と統計の手引き)である。これは、1970年代に、フェフナーという、精神科3年目のレジデントがうつ病診断基準を自作したものが基本となっている。その後多くの専門家によって、改訂が重ねられて現在に至っている。ではフェフナーの診断基準とはどういうものか。うつ病の具体的定義は棚上げにして、その特徴的な症状を抽出し、暫定的な診断基準を作るというアイデアである。いわば、状況証拠を積み上げて犯人像を絞っていくようなやり方である。この診断方法では、症状さえ捕らえておけば、誰でも診断ができてしまうという簡便さ故に、広く世界中で使用されることになった。しかし、以下のような問題点があげられる。1)ほとんどの精神疾患は連続しており、境界を引くのが難しい。2)診断基準が言葉という曖昧なもので作られている。3)診断を自覚症状に頼らざるをえない。これらについて少し説明すると、1)境界をどこに引くか?というのは、うつ病の診断基準では、ある程度の重い抑うつ状態が2週間以上続いたらうつ病とする、ことになっている。しかしうつ病の程度についてはスケールをとってみると、ほとんど正規分布に近いグラフが描けてしまう。しかも軽い抑うつの方が重い抑うつよりも圧倒的に多い。果たしてどこで線引きをするのかという問題である。2)言葉という曖昧なものを使う診断基準とはどういうことか。診断基準の中身で、「ほとんど一日中の抑うつ気分」、「ほとんど一日中の興味・または喜びの著しい減退」という必須の条件がある。しかしほとんど一日中抑うつ気分という人は、ほとんど一日中喜びが著しく低下していることと、同じことではないかという疑問がわいてくる。必須要件であるが、重複するような内容の基準があげられているのは、まだ不十分な診断基準という印象を受ける。3)自覚症状に頼らなくてはならない難しさとは、それぞれの症状の有無を本人に確認することによって診断を行う。あくまで患者の訴える症状に頼らざるをえないという限界がある。客観的な数値や画像などの補助的な検査で、重傷度を測定できない。これらの問題点に加えて、さらに、診断基準における具体的な用語や文章の不備がある。たとえば、「非定型的うつ病」について述べると、うつ病診断基準の「ほとんど一日中続く抑うつ気分」あるいは「興味または喜びの著しい減退」のいずれか一方を満たすことが必須で、その下位分類である非定型うつ病の必須項目では「気分の反応性がある(楽しいことがあれば気分はよくなる)」という。非定型うつ病はうつ病の下位分類なので、非定型うつ病とはうつ病の診断基準も満たす必要がある。しかし常識的に考えたら、「ほぼ一日中続く抑うつ気分」と「楽しいことがあれば気分がよくなる」ということが同時に存在することは、現実にはあり得ない。この論理的矛盾に気がつくと、どう診断してよいかわからなくなる。
 しかし精神科医療において、DSMのような共通言語はもちろん必要である。その限度を理解した上でうまく使いこなすことが肝要ではないか、と考えている。
 


              -冨高辰一郎著「うつ病の常識はほんとうか」より引用-
2012年11月04日

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