101. 日本の医療、比べてみたら10勝5敗3分けで世界一、その2

   今回はすぐに医師に診察してもらえるかという問題について書いてみます。
どれほど高い医療技術があっても、それが国民にとって、どのくらい「身近」であるのかは大変に重要です。医療と人をつなぐのは健康保険ですが、日本の場合、国民皆保険制度をとっております。結論から言えば、日本の健康保険制度は世界で最も優れた制度であるといえます。しかし「日本の医療費負担は3割もある、一方イギリスや北欧等は無料じゃないか!」という反論が出そうですが、その中身を見てみます。かの国は医療費は全額税金で賄われており、自己負担はゼロに近い。どこか具合の悪いとき、近くの医院で診てもらうというのは日本では当たり前のことですが、イギリスでは違います。それは、医師にかかるまでに手順があり、通常患者が出向くのは薬局です。ここで自分の症状を相談して、薬を買う。薬を飲んで改善しなければ、次にコンタクトをとるのは看護師です。欧米には医師の指示無しに診断や薬の処方ができるナース・プラクティショナーという上級看護師がいて、こうした看護師が沢山独立開業しております。まずは電話で相談し、助言をうけるのです。ここまでに治ってしまう患者もいるわけですが、治らぬ患者もおります。その段階でようやく地域のかかりつけ医の診療を受ける。このような順序がイギリスの医療体制です。その後必要に応じて、かかりつけ医から大学病院や専門医を紹介されます。日本のように、患者が勝手に病院を選べるのとは大違いです。要するに、イギリスでは具合が悪いからといって、すぐに医師に診てもらえるわけではなく、医師までの距離が遠いわけです。もし、いきなり医師を訪ねても、あまり相手にしてもらえません。国際比較調査グループ(ISSP)の調査に寄れば、「この一年間に医療機関を受診したか」の問いに、調査31カ国中、日本64%でトップです。これに対してスウェーデン等では滅多なことでは医師にかからない、というよりもかかれないというべきか、イギリスと同じ仕組みとなっているのです。スウェーデン政府は医療政策の目標として、希望すれば1週間以内に医師の診察を受けられること、必要な手術は90日以内に受けられること等を挙げております。国の挙げる目標がコレですから、実態はこの何十倍も時間をかけないと、医師の診察や手術も受けられないということです。医師にかかるハードルが高いのはUSAも同じですが、こちらは医療費が高いことがバリアとなっており、これを超えられるのは、経済的に豊かな人たちだけです。日本人の常識からすると、医療に対するアクセスが非常に悪いといわざるを得ない。また、イギリスでは医師は準公務員であり、日本とは違ってどこでも開業することはできない。各エリアごとに医師が一人ずつ置かれ、それぞれが2000~3000人の住民を受け持つようになっています。その割り当て人数に対する報酬を国から支給されており、診療人数の多寡により、報酬が増えるというものではありません。これがイギリスのかかりつけ医が多くの診療をこなそうとはしない理由の一つです。また、イギリスにはCTやMRIのような高度な検査機械が多くないので、数ヶ月の検査待ちも良くあります。ただし進行性のがんなどは、自己負担により大学病院で診てもらえるルートはあります。一部の富裕層は、医療ツーリズムという方法をとる人もいて、インドなど他国に飛んで、外国人患者を受け入れる病院を受診し、お金を払ってその日のうちに検査を行い、場合により翌日手術ということもあります。医療の身近さを計るもう一つの指標は、医師数です。OECD加盟国の中で、人口1000人あたりの医師数を見ると(2015)、OECD平均3.3、多い国はギリシャ6.3、オーストリア5.0、ロシア4.9、 以下、少ない国はイギリス2.8、USA2.6、日本2.3というわけで、日本はかなり少ない国です。この少ない数で皆保険制度のもと、イギリス等と違って国民にとってごく身近な体制を維持しているのですから、医師がオーバーワークになるのも当然です。
-真野俊樹「日本の医療、比べてみたら10勝5敗3分けで世界一」より引用-

2017年06月01日

74.オバマケアの正体は?その3、次のターゲットは日本!

    この連載の初めに述べたが、オバマケアと日本の国民皆保険制度は全く異なる。何が異なるかと言えば、日本の医療制度は憲法25条に基づく社会保障の一環であり、「公平・平等」が基本理念である。一方アメリカの医療は、「ビジネス」という位置づけである。いかにきれい事や数字データを並べても、国民の「命」が、憲法により守られるべきものという日本と、市場に並ぶ「商品」の一つというアメリカでは、根本的に考え方が違う。この事実を知らない日本人は、意外に多いのではなかろうか。だが、知らぬと言うことは、つけ入る隙を作ることになる。ウオール街と経済界に支配されるアメリカ政府から日本政府に対して、医療市場開放の圧力を加えて、混合診療解禁や株式会社病院、保険組織の民営化、診療報酬改革、公的保険周辺の営利民間企業参入や投資信託など、凄いスピードで規制緩和が進められている。これにまつわる法改正の多さにも驚愕させられる。日本の医療がアメリカ型医療になってしまうとして、日本医師会が反対する「TPP」交渉など、今まさに「国民皆保険制度」解体に向かって日本政府が行っていることは、四方八方から押し寄せる米国からの圧力の中の、ただの一つに過ぎない。そして、「国民皆保険制度」を持つ日本は、アメリカのウオール街や経済界にとってキラキラと輝く美味しい次の獲物である。
  2014年4月に消費税が8%に引き上げられた。「社会保障にあてるから」と繰り返し強調されたが、蓋を開けてみると社会保障に当てたのは、わずか1割のみ。ほとんどは法人税減税分で相殺されてしまう。しかも医療機関は企業と異なり、物品を購入すると、「仕入れ税控除」が認めらないため、消費税を支払うが、医療費は非課税のため、患者負担に転嫁できない。厚労省は、毎年診療報酬により補填されるとしてきたが、小泉内閣以来、毎年診療報酬は2200億円程度下げられてきており、消費税は現在各病院の持ち出しとなっている。これ以上消費税が上げられた場合、日本各地の医療機関は次々に倒産する可能性が高くなる。地方各地の悲鳴は年々大きくなるが、国民はこの危機感はほとんど認知されていない。マスコミは消費税の問題を取り上げる際、目に見える物価ばかりに焦点を当てるが、誰もが当事者になる医療という重要分野への影響は全くといってよいほど取り上げられず、国民に医師たちの悲鳴は聞こえてこない。代わりに繰り返されるのは、昔も今も「社会保障を維持するために、消費増税はやむを得ない」というフレーズである。
   2014年ダボス会議で安倍総理が言及した持ち株会社型法人制度とは、実際は株式会社が出資できるような制度になっている。安倍政権の産業競争力会議がこれを提唱したとき、地方の中規模病院を経営する医師は真っ先に強い懸念を示した。医師ではないビジネス経営のプロが運営する救急病院・老人ホーム・介護福祉施設などは、効率化と、医療費削減を同時に進め、経営至上主義の医療ができあがる。2002年ランド経済学誌が発表したデータでは、過去11年間に全米3645病院の調査では、病院が非営利から株式会社経営に変わると、平均死亡率は3年で50%増加、その逆だと死亡率は下がったという。この事実を冷静に読み取る必要がある。

   -堤未果著「沈みゆく大国 アメリカ」集英社新書-より抜粋引用

2015年02月28日

73.オバマケアの正体は?その2、

    オバマケア以前は、正社員は、会社の契約する民間保険会社に加入していた。しかし、その内容は、各種の制限のある診療であり、各保険会社が契約している病院の治療を受けるシステムである。もしその制限を超える治療、または契約していない病院の治療を受けた場合には、全額自費払いとなる。この自費払いの費用はとても高額で、すぐに数百万くらいの金額となることもある。このため、自己破産に追い込まれる人もたくさん出てきた。つまり患者が勝手に行きたい病院にかかる権利はなかった。オバマケアが施行された後、各企業はどの民間保険でも予防医療を含む10項目を保険の必須要件とし、個人年間負担額上限を6350ドルとした。同時にメディケイド高齢者医療費は1/3にカットすることを2大財源の一つとしていた。向こう10年間で5750億ドル(57兆5000億円)のカットである。実は高齢者医療に対する医師への支払いは通常の80%程度の治療費しか支払われていない。今後10年でこれが70%に減らされる。これが実行されると、15%以上の病院が高齢患者を診なくなるという予想がある。2007年政府のメディケア・メディケイドサービスセンターは、電子式診療内容報告書の導入を発表した。メディケア高齢者・障害者、メディケイド低所得層の患者を診る際に、医師は国に決められたマニュアルに沿って治療し、その結果を詳細に報告するシステムである。入力項目は詳細にわたり、全部埋めるためには患者個人情報の80%把握しておく必要がある。このレポートをもとに治療成績が評価され、国から医師への報酬が支払われる。しかし、どの患者に対しても一律に同じ治療を施すマニュアル治療ということは、患者一人一人が皆違う病状や環境であることを全く無視するとても悪いシステムだった。まるで患者を、同じ型で抜かれたクッキーのような扱いにしてしまうのだ。その結果、医師たちは複雑な病気や、治療が長期になりそうな患者を避けるようになった。政府が決めたマニュアル通りの治療をしていれば、レポートと引き替えにボーナスが出る。オバマケアはこのシステムを義務化して、医療費の削減を図る計画だ。さらに、それまで3000通りの治療コードが87000に、14000だった診療コードは70000に増やした。医師たちは新しい技術について行くのが面倒なわけではなく、本当に時間がない。結果は、多くの熱意のある医師たちを失望させて、医師を廃業するに至らしめた。これら医療制度に対する答えは、一つであろう。もし民間保険を廃止し、日本のような政府国民保険一本にすれば、医師を事務作業から解放するだけでなく、事務費用の節減でアメリカは年間4000億ドル(40兆円)もの医療費を下げられる。さらに、国民医療保険制度は、アメリカなら、メディケアを高齢者だけではなく、全国民対象に広げれば実現することである。
アメリカでは毎年、患者から保険会社と製薬会社に支払われる金額は非常に増えている一方で、医師たちに支払われる金額はひどく減っている。医師たちは報酬を減らされる上に、書類の山に埋もれ、国の決めた多くのルールに縛られ、治療方針を決める主導権を年々奪われ、患者の顔を見てじっくり話せる時間も少なくなっている。
これが現実の、オバマケアの正体である。

   -堤未果著「沈みゆく大国 アメリカ」集英社新書-より抜粋引用

2015年02月01日

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