86.うつ病の性差について、

    出産や月経が男性には無いのと同じように、精神的な不調に性差が影響を与えていることは明らかである。最も新しい疾患分類のDSM-5でも、周産期発症の大うつ病、双極性障害、短期精神病性障害の基準が含まれている。またDSM-5では、産後うつ病は出産後だけではなく、妊娠中からも気分障害が生じることから対象の期間が拡大され、妊娠中・出産後4週間を含む出産前後のうつ病と改められた。また、うつ病は一般的に女性の方が罹患しやすい。実際に1992年に行われたNational Comorbidity Surveyでは、過去12ヶ月にうつに罹患した男性は7.7%、女性は12.9% であった。また、生涯有病率はその約2倍に迫ることが分かった。日本でもほぼ同様の報告がなされており、文化による違いはないといわれている。また、臨床経過における報告でも女性は再発・慢性化が多い。過去の疫学調査では、通常であればサポートが充実する結婚生活も女性の場合ではうつ病の危険因子に挙げられている。その理由として、主婦となった場合や、育児により社会参加が男性に比べて維持しにくいからと考えられている。また、現代社会では昔に比べて、専業主婦が自己評価を高め、確固としたアイデンティティイを保つ役割も低下してきていることも挙げられる。働く女性の場合、職場での性差別の他に、育児や家事との両立などの葛藤が生じやすいと考えられる。実際に、いわゆる母親や妻という役割をうつ病の危険因子とする報告もある。
  うつ病が生物学的疾患であるなら、身体的男女差がある可能性は否定できない。異性双生児症例対照研究において、遺伝や家族環境の背景、性格、対人関係の障害と、大うつ病発症の因果関係は、女性の方が男性よりも強いという報告がある。さらに、うつ病の発症要因には、女性では、不十分な人間関係形成、満たされない依存的要求、男性では目標達成の失敗、低い自己評価が関係する。これらも性差があるという結果を示している。その他、性腺ホルモンが特徴としてあげられる。中でもエストロゲンが焦燥感や不眠・食欲や身体症状に影響を与えることはよく知られている。女性のうつは、思春期頃に特に増えるが、性腺ホルモンがネガティブな感情に関連があることが原因とも言われる。近年、PETを使った画像診断の分野で、αメチルトリプトファンを用いた研究において、セロトニン合成率を計測したところ、男性では女性よりも52%高いことが示された。うつ病だけでなく、女性の有病率が高い摂食障害などの原因としてセロトニン神経系の異常が想定されている。またトリプトファン減少に伴う抑うつ状態は女性でより多く認められる。さらに抗うつ薬により女性では血中トリプトファン値が83%上昇するが、男性では32%しか増加しない。また、男性では、セロトニン5-HT2受容体が前頭葉・帯状回で結合容量が大きいという報告がある。これらセロトニン系の異常があることに一致して、女性ではSSRIやSNRIは三環系抗うつ薬よりも有効であり、男性では三環系抗うつ薬のほうがSSRIよりも有効であるという報告もある。
  以上、性差によるうつ病の発現要因、考えられるメカニズム、そして治療の特徴などを簡略にまとめてみた。

-角田智哉他「うつ病の性差」先端医学社Vol.5No.4,December2015より引用-
2016年02月28日

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