95.うつ病に漢方は有効か?について

   漢方医学は心身一如と称されるように、心身相関という観点に立つ医学である。漢方治療の根幹は漢方特有の診断手法である「症」であり、うつ病に対する漢方薬を処方する際も、漢方医学的な診断である症を決定すればよい。ここで漢方薬の効果や副作用などのエビデンスを中心に検討するが、症を中心に据える漢方医学に対して、うつ病という西洋医学的概念を持ち込んで、さらに西洋医学的な検証、エビデンスという手法に当てはめることは、そもそも無理難題に近い。ここでは発表されている幾つかの漢方薬を使用した論文を紹介する。
1.部分寛解のうつ病患者に対する六味丸や八味地黄丸追加投与の有効性について、
20例の完全寛解に至らない大うつ病性障害患者に、六味丸もしくは八味地黄丸の抗うつ薬への追加投与の有効性についての報告がある。易疲労感や無気力感などの症状を訴える部分寛解うつ病患者を、漢方医学における「腎虚」と呼ばれる状態と考え、これら部分寛解患者20名につき、冷えを自覚する8症例に対して八味地黄丸エキス、それ以外の12症例には六味丸をそれぞれ4週間追加投与した。結果は6症例に改善、6症例は軽度改善を認めた。軽度以上の改善を認めた12症例は、いずれも腎虚に特徴的な「小腹不仁」という腹診所見を認めた。逆に特徴的な小腹不仁を認めなかった5症例は六味丸、八味地黄丸は全例において無効であった。また、有害事象は1例に胃部不快感を認めた。六味丸や八味地黄丸は、特徴的な腹診を認める大うつ病性障害の部分寛解例の易疲労性や気力の減退に対して有用であることを示した。
2.軽症うつ病患者に対する加味帰脾湯投与の有効性について、
中高年の軽症うつ病患者30例に対して加味帰脾湯投与を行った。対象者は何らかの理由で抗うつ薬の投与が適当でないと考えられる、虚証で、自殺企図がないHAM-D30以下の30例である。加味帰脾湯のほかに、不安、不眠、食欲不振などがある症例は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬・十全大補湯の併用可とした。結果は、著効7例、有効7例、やや有効9例、無効および中止は7例であり、平均観察期間は3.53週であった。副作用は日中の眠気1例、また、併用薬として、ベンゾジアゼピン系向精神薬24例、4例は十全大補湯を併用した。結論として、中高年の虚証と考えられる軽うつ病患者に対する加味帰脾湯の有効性が示唆されるものになった。
3.重症うつ病エピソード入院患者に対する漢方薬追加投与の有効性について、
重症うつ病エピソード入院患者に対して漢方追加投与を行った。対象はICD-10の診断基準を満たし、HAM-D24で35点以上、もしくは自殺企図に伴ううつ病エピソードの入院患者とし、電気けいれん療法や精神療法を受けている患者は除外された。入院患者はvenlafaxineより治療開始され、患者各々の病態により、他の抗うつ薬などの向精神薬が追加された。追加薬として漢方薬が適当と判断された患者は、1672名中78例、漢方薬以外の通常治療を受けている68例が対照群と設定された。主要転帰である退院までの期間は、両群に有意差はなかった。しかし、有害事象に関しては、漢方薬治療群において倦怠感・頭痛・動悸・口渇・便秘が有意に少なかったが、胃部不快感は通常治療群に比べて多く認められた。使われた漢方薬は、加味逍遙散・半夏厚朴湯・柴胡桂枝湯・帰脾湯・六味丸であった。
-坪井貴嗣「うつ病治療に対する漢方薬」臨床精神薬理Vol.19No7.2016より引用-

2016年12月04日

RSS FEED RSS FEED  記事一覧 記事一覧  TOPPAGE コラムの最初のページへ  TOP ページの先頭へ