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108.健康格差-あなたの寿命は社会が決める。No.1、

   「健康格差」は、一見「自らの健康管理を怠ったゆえの自業自得」と捉えられることが多い。しかし、これは一部の人たちが不利益を被るという単純な問題では無い。「健康格差」を放置すると医療費や介護費の増大を招くだけでは無く、破綻寸前にあるといわれる日本の国家財政をさらに圧迫する。その結果、社会保障制度の切り下げや保険料の値上げ、増税という形で国民全員が負担を強いられることになる。いわゆる「自己責任論」で切り捨てても、結局は社会全体の問題として「しっぺ返し」のような形で、国民一人一人にのしかかってくる。 現役世代に迫る「健康格差」の現実はどうなのか。代表的な生活習慣病として、糖尿病があげられる。血糖値が高くなる病気として知られているが、国内患者数が2016年に1000万人を突破し、実に日本人12人に1人が罹患する国民病の一つとして社会問題になっている。代表的な2型糖尿病について、これまでは患者の大半が中高年層とされ、若い世代は無縁の病気と思われてきた。しかし最近、30~40代の現役世代に糖尿病が増え始めている。しかも腎臓や網膜に合併症を起こしている重度の患者である。ここで2型糖尿病とは、40歳以上の、もともと糖尿病になりやすい人が、肥満・運動不足・ストレスなどをきっかけに発症するものである。2008年リーマンショック後あたりから、なんと20代の人にも2型糖尿病の症状が見つかり始めた。民医連医療部が2013年に行った、40歳以下の男子2型糖尿病患者782名の全国調査によれば、患者グループでは無職16.3%、全国25~34歳以下の無職6.7%と、その差2倍以上であった。また患者グループの正規雇用55.5%、全国25~35歳以下正規雇用77.0%と、21.5ポイントも低かった。また、この調査対象の患者世帯年収は200万未満が57.4%、年収600万以上は10.6%にすぎない。厚労省の調査によると、世帯の所得が低いほど米・パンなどの炭水化物の摂取量が増え、野菜や肉類の摂取量が減少する。野菜・肉類・魚介類などの生鮮食品は、穀類や加工食品に比べて価格が高く、長期保存が難しく、加えて調理が必要になる。非正規雇用者の多くは長時間労働を強いられ、食事の時間も不規則になり、料理にかける時間の余裕も無い。また、健康に関する理解度(リテラシー)や関心の違いも指摘される。対象患者の最終学歴を見ると、中卒者は15.2%で、日本人の高校進学率96.7%と比べると、明らかに中卒者の割合が高い。初診時に重症合併症を伴っていた20~30代の2型糖尿病患者の共通するポイントは以下の3点であった。
1.小児期~思春期からの肥満を背景とする糖尿病である、
2.受診時にすでに重症の合併症を伴っている、
3.学校卒業後、長期間非正規雇用に従事し、医療機関への受診がほとんど無い。
これらは単なる不摂生では無く、雇用の不安定さなどから健康診断を受けづらいことや、健康診断を受けても経済的理由から通院できないこと、「通院することにより仕事を休むと、解雇されてしまうのでは?という不安がある。また、多忙から自炊する余裕も無く、自然と高血糖になるような食事になってしまう」という現実がある。
 一方、子供に迫る「健康格差」の実態はどうか。厚労省の乳幼児栄養調査によれば、経済的にゆとりのある家庭の子供49.5%は、週4日以上魚を食べているが、ゆとりの無い家庭では、34.7%で、15ポイントも低かった。一方お菓子、インスタントラーメン、カップ麺はゆとりの無い家庭の子供に多く食べられており、魚、大豆製品、野菜、果物はあまり食べられないことが分かっている。さらにゆとりの無い家庭の子供では肥満率が高い、虫歯の数が多い、運動習慣が無いということも分かっている。健康格差から子供の貧困について調べていると驚くべきことに、日本の子供の貧困率は世界の先進国の中で最悪レベルにあることが分かる。OECD加盟35カ国中11番目に高い貧困率であり、OECD平均を上回っている。貧困家庭の子供は、食事、学習、進学などの面で一般家庭に比べて不利な条件に置かれるため、将来も貧困から抜け出せない傾向が強い。これら子供の健康格差を是正する具体的な対策として、「こども食堂」が注目されている。「こども食堂」とは、家で満足な食事がとれない子どもに温かい食事を提供することを目的に作られたボランティア事業である。子どもたちは無料もしくは1食数百円程度の負担で、栄養バランスがとれた食事をとることが出来る。多くの施設では、保護者も格安の料金で食事をとれる。日本財団の推計によれば、貧困家庭にある子供に教育支援などを行わなかった場合、個人所得が減る一方で、国の財政負担が増えることから、経済や国の財政に与えるマイナスの影響=社会損失は、15歳の子供全体の場合、40兆円に上ることが明らかになっている。進学率の低下、生活保護や社会保障費の増大など、社会全体のリスクとして捉えるべきという専門家の指摘もある。

-NHKスペシャル取材班:健康格差-あなたの寿命は社会が決める-より抜粋引用

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