206.PMDA(医薬品医療機器総合機構)-成り立ちと内部構造について、
恐らく、多くの方は聞いたことが無い、全くなじみの無い組織だと思います。PMDAとは何をする組織かというと、厚労省の出先機関であり、1.医薬品の「承認審査」、2.薬の安全性の情報収集と分析・提供による「安全対策」、3.副作用などの「健康被害の救済」という3つの機能を併せ持つ薬事行政の中枢機関である。この機構ができたのは2002年。この年、非加熱のフィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウィルス汚染により、1万人以上がC型肝炎に感染したと推定される事件が起きたときである。丁度小泉政権下で、「官から民へ」を合い言葉にして、聖域無き構造改革が政治テーマで有り、特殊法人の整理統合が進んでいた流れに乗って誕生した。そのときまでの厚労省内の薬事行政では、どのような構造であったのかを簡単に説明すると、国家公務員上級試験に合格した「キャリア官僚組」と、医師免許を持つ「医系技官組」、また薬剤師免許を持つ「薬系技官組」という3つの集団で構成されている典型的なタテ割り行政機能の機関であった。この中で、省内で150名ほど在籍する薬系技官は、「医薬品の承認審査」や「安全性の確保」、革新的な医薬品の「研究開発の促進」、薬剤師・薬局の「販売制度の見直し」、麻薬・大麻・覚醒剤・危険ドラッグの「取り締まり」等を担当していた。さらに薬系技官は、新薬の市場への投入や、どの薬に医療保険をどう適応し、いくらで処方するかを決める、「公的薬価」いわゆる「薬価」の決定権を握り、薬事行政の根幹を押さえていた。
但し、職制のうえで、薬系技官は、キャリア官僚や、医系技官とは差をつけられていた。キャリア官僚は国家公務員の頂点である「厚生労働事務次官」に就けるし、医系技官は次官級の「医務技監」というポストがある。しかし薬系技官の最高位は、「大臣官房審議官」であり、医薬局の局長の椅子にも座れない。このような格差を内包しながらも、薬系技官と医系技官、キャリア官僚は部分的に重なりながら、それぞれのテリトリーを守って薬にかかわる施策を講じてきた。
しかし、先にも述べた非加熱フィブリノゲン製剤事件が、皮肉にも薬事行政を動かす契機になった。2002年の事件を受けて、厚労省は非加熱フィブリノゲン製剤に関する調査報告書をまとめて、1つの区切りをつけた。報告書では、薬の「承認審査」と「安全対策」、「健康被害の救済」を扱う組織が縦割りでバラバラ、連携が不足していると指摘していた。この後にPMDAという組織を作ったのである。建前は、薬の承認審査と安全対策、健康被害の救済であるが、これらは、実はそれぞれのグループの利害がぶつかり合う「利益相反」の恐れがある部分である。もともと、製薬会社は、自社の新薬に1日も早く承認を取り付けて、早く売り出したい希望がある。果たして「承認審査」の部門は、製薬会社の意向を忖度せず、新薬の有効性、安全性の治験データを中立的に評価できるのか。また、「安全対策」や「健康被害の救済」を担う部署は、製薬会社に不利な副作用情報を十分に集めて、被害が生じたら、きちんと救済できるのか。ここがポイントである。
これらの疑念をはらみながら、2004.4、過去に承認審査を担当していた国立医薬品食品衛生研究所の医薬品医療機器審査センターと、副作用の健康被害の救済に携わっていた医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構などが統合され、PMDAが開設された。寄り合い所帯の初代理事長には、厚労省元医薬局長の医系技官が就任した。トップこそ医系技官であるが、PMDAは薬系技官の「砦」となった。そうして、薬系技官は本省の医薬局からPMDA、厚労省の傘下の研究機関などを巡ってキャリアを積むパターンができあがった。ところが、PMDAが船出して3年後、2007年に厚労省の「隠蔽」が疑われる事実が発覚した。前述の「C型肝炎ウィルス感染に関する報告書を作成する過程で、製薬会社が厚労省に提出した文章に、フィブリノゲンでC型肝炎に感染した疑いのある416名の患者リストが記載されていた。にもかかわらず、厚労省と製薬会社は、その患者本人に感染の疑いのあることを知らせず、治療の機会を逸した、と糾弾された。2008年には初代理事長は、責任を取って職を辞した。その後、C型肝炎訴訟は和解が成立し、被害者を全員一律に救済する法律が施行された。以後、PMDAは200億円の基金による被害者救済の給付金を支給する膨大な事務作業を担うこととなった。
鳴り物入りでスタートしたPMDAだったが、旧来の縦割りの垣根が持ち込まれ、組織のかぜ通しは悪かった。2010.2厚労省の「薬害肝炎事件の検証および再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は、PMDAの職員へのアンケート調査の結果を公表した。「環境調整のあり方」「組織文化」「仕事について思うこと」などを問うており、344名の職員が素直な回答を寄せている。職員の声は、以下のような物であった。
「業務改革に取り組んだが、部課長のリーダーシップの無さでほとんど改革が進まない」。これは、部課長に、厚労省で係長や課長補佐級の職員を持ってきているため、組織管理、人事管理、若手の教育など、管理者が持つべき基礎知識が欠如しているからであった。なんと2025.5に初めて、これらの人々を対象とした管理職研修を実施したばかりである。以上のことから、優秀な人材を採用しても、育成・指導する者がいないのが現状である。また、厚労省職員とPMDA独自採用職員の間でも、処遇の差があることも事実である。同じ仕事をしていても、厚労省の人間は3~4年で係長に昇格するが、PMDA職員はそれ以上に時間がかかるのである。
また別の回答者は、厚労省から出向している薬系技官を手厳しく批判している。
「PMDAの理想を形骸化させないためには、厚労省からの完全な独立が必要である」と。確かに副作用などの被害者団体は独法化の際に、最終責任は厚労省が負うべきであり、厚労省を逃がさないことが必要である、ということから、今の組織体制(機構が審査・調査し、厚労省に報告する)となったが、これは大きな弊害を生んでいる。
PMDAが厚労省の下働きをさせられていることへの反発も強い。
厚労省の本音は、PMDAに対して、「マスコミなどが騒いでいる製品はさっさと承認する」「マスコミなどの世間が知らない安全性上の問題はPMDAが直接的にマスコミ等に知らせない。マスコミ対応に慣れた本省が対応する」。要するに、専門家集団であるPMDAが独自の観点で、審査や調査をして、それが公になることで、その後の面倒なマスコミ・国会対応を避けたいというキャリア官僚ならではの発想である。
PMDA機構の幹部職員を見れば分かりやすい。一部の部長を除けば、部長職以上はすべて厚労省からの薬系キャリア出身者で占められており、PMDAを厚労省のコントロール下に置き、余計なことをさせない監視的な側面が窺われる。
PMDAは、人事面では厚労省の薬系技官らの「植民地」の様相を呈しており、経済の面では民間の製薬会社からの出資金に頼っている現状がある。
というもの、セイフティートライアングルと謳っているが、経営的には製薬会社からの承認申請や治験相談の「手数料」、副作用や感染にかかわる「拠出金」に依存しているのだ。つまり収入のほとんどを製薬会社からのお金に頼っているということである。
PMDAの2022年度計画では、総収入305億2500万のうち、新薬承認手数料収入が166億5800万、拠出金収入は84億6200万、両者で全収入の82%を越えている。残りは国からの運営費交付金、国庫補助金、助成金が多くを占め、PMDAの業務委託収入はわずか4%にとどまる。
1000人規模の職員のうち、70%が承認審査部門に配属され、安全対策部門は30%弱、健康被害救済部門は数%となっている。つまり、薬の承認ありきの組織なのだ。
厚労省とPMDAの組織的なきしみが生じる中、様々な有害な事象が生じた。新世代抗うつ薬や抗精神病薬などが、巨大製薬企業の病気啓発活動と、医学会のオピニオンリーダーや行政を巻き込んだマーケティング戦略により、大量に処方されている。この現状はしっかりと認識することが必要である。
-山岡淳一郎「ルポ薬漬け-医療とビジネスの罠」より引用-

