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2026-04-01

207..睡眠の超基本について、

   今回は、睡眠について、述べてみます。
日本では、昼間でも、少しくらい眠いのは当たりまえ、仕方の無いことだと思っている人が多い。
しかし、海外標準では、昼間の眠気は体調不良のサインと見なされる。特に、ヨーロッパの人は、昼間眠そうにしている人を見たら、「体調悪いなら、家に帰って休めば」と言いたくなるようだ。昼間の眠気の最大の原因は睡眠不足である。数々の調査で、日本人は世界で最も寝不足な国民であると繰り返し示されてきた。日本人の睡眠不足は小学校高学年頃から始まっている。小・中・高と成長に重要な時期を、多くの生徒が睡眠不足で過ごすので、大人になっても昼間眠いのが当たり前になってしまう。
 お金に例えると、日本人は睡眠の為の時間を「可処分所得」だと思っている人が多いかもしれない。仕事や勉強に忙しい、自分の時間も欲しい、それらを全てこなして、残った時間で眠ろう・・・しかし、コレはとても危険な考え方で、どうしても睡眠時間が削られがちになってしまう。そうではなく、睡眠の時間は、毎晩きちんと支払うべき、「住宅ローン」だと思うことである。もし自分には7時間の睡眠が必要とすれば、それを最初に確保して、残り17時間の中で1日をやりくりすることが、正しいアプローチである。睡眠はおまけでは無い。
  睡眠不足や睡眠障害(例えば睡眠時無呼吸症候群など)があると、 短期的には集中力やモチベーションが低下して、仕事や勉強のパフォーマンスが低下する。感情のコントロールにも支障を来し、イライラ・クヨクヨしたり、怒りを抑えられなくなったり、他の人に役立つような利他的な行動も抑えられてしまう。更に、睡眠不足や睡眠障害が長期的に続くと、メンタルの不調(うつ状態)、メタボリック症候群(内臓肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常症など)、中高年では認知症やガンなど、あらゆる病気のリスクが上がることが分かっている。
  過去30年の間に、多くの先進国では認知症の発症率が徐々に減少していると報告されている。一方、日本では認知症の有病率や発症率が増え続けている。睡眠不足は個人の問題にとどまらず、企業の利益や社会全体にも影響を及ぼすことになる。日本経済の「失われた30年」も、もしかしたら日本人が抱える膨大な睡眠負債が、その原因の1つかもしれない。
 健康の3要素は食・運動・睡眠である。食と運動は、少なくとも自分自身で意識できる行動であるが、睡眠については、自分の睡眠がどうなっているかリアルタイムで認識することができない。不眠の訴え(眠りたいのに思うように眠れない)のある人でも、客観的には健やかに眠れている場合も多い一方、自身では睡眠の問題を自覚していなくても、実は重症の睡眠時無呼吸症だったなど、睡眠については主観と客観がしばしば乖離する。現在では自身の睡眠を「見える化」する方法もイロイロあるし、自分の睡眠を客観的に知ることも、睡眠改善への一歩になる。
   ここからは少し専門的な話になるが、睡眠は1晩で2つの睡眠段階を繰り返す。覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠という段階である。そもそも、このレム睡眠とは何かというと、睡眠に入った後に、眼球が素早く動く時があり、コレをRapid Eye Movements(通称REM睡眠期)と呼んでおり、眼球が動いていない時をノンレム睡眠と呼んでいる。このレム睡眠とノンレム睡眠は平均して90分単位で繰り返されるため、人によっては90分の2倍で3時間、あるいは6時間寝れば十分と考えている人もいる。しかし、睡眠サイクルは1晩のうちでも大きく揺らぐために、「90分」では当てにならない。1晩のヒプノグラム(睡眠状態の変化を時間に沿って表したもの)で確認すると、レム睡眠、ノンレム睡眠の段階が時間に沿って変化することが分かる。朝方にかけてレム睡眠が多くなり、ノンレム睡眠が浅くなっていくことで目覚める。
  これまでの研究で、ノンレム睡眠では大脳皮質の神経細胞が一斉に活動と休止を繰り返していることが分かってきた。睡眠は脳の休憩時間だと思っている人もいるが、それは誤解である。ノンレム睡眠は深さの順に、N1、N2、N3、の3段階に分けられており、N3が最も深い睡眠である。N1は睡眠の初期段階で、筋肉の緊張が緩む時。N2は体温が下がり、心拍数が安定する。N3は最も深い睡眠で、脳波を取るとデルタ波と呼ばれる大きな波が出ている。成長ホルモンが活発に分泌され、身体の回復が促進される。この時期に起こされると倦怠感が残りやすい。  
   一方、レム睡眠期では、筋肉は完全に脱力しているが、脳波は非常に活発で、細かい波形が観察される。最近の研究で、脳の血流量が増えることが分かっている。レム睡眠中は、はっきりした夢を見ることが知られている。朝方になるとレム睡眠が増えるので、起きたときに夢を覚えていることもある。子どもの方がレム睡眠が多く、成長期には特に増える。しかし加齢と共にレム睡眠は減少していく。
 眠気はなぜ起こってくるのかというと、覚醒時間が長くなるにつれて眠気が蓄積して、十分な睡眠をとると消えていく。眠気を引き起こす脳内メカニズムは未だ不明であるが、眠気は「睡眠圧」と「体内時計」の2つの要因により形成されることが分かっている。この「睡眠圧」とは、起きている間にたまっていく睡眠要求の強さのことで、眠ると解消される。
  また「体内時計」は約24時間サイクルで繰り返されるリズムで、体内時計からの覚醒シグナルは午後9時頃をピークとして、その後弱まっていく。睡眠圧が蓄積されて、覚醒シグナルが低下すると眠りに入る。
    睡眠については世界各国で種々の調査が行われているが、どの調査を見ても日本は最も睡眠時間の短い国の1つである。世界協力開発機構の2021年の調査では、加盟する33ヶ国の平均睡眠時間が8時間28分なのに、日本人の平均は7時間22分であった。睡眠時間の不足による日中のパフォーマンスが下がる為の経済損失は、年間約15兆円という試算もある。
 また、最も最適な睡眠時間が7時間というのは、睡眠時間と寿命を比較して一番寿命が長かった人は7時間睡眠の人が多かったというデータから言われ始めた。着目したいのは、7時間という数字では無く、睡眠時間が6時間未満の人は慢性的に睡眠負債がたまっており、様々な疾患が引き起こされ、寿命を短くしていると考えられる。逆に睡眠時間が8~9時間より長い人は、既に何らかの健康上の問題を抱えている為に、睡眠時間が延びていると推定される。
人は睡眠時間が十分に足りているときはそれ以上眠れないものである。
-柳沢正史「睡眠の超基本」より引用-

2026年04月01日
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