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2013-08-03

55.第二世代抗精神薬の実力について、

第二世代抗精神薬(second generation antipsychotics:SGA)の単剤かつ適量使用を推進しているが、SGA自体の優越性には検討の余地が残る。SGAの優越性は第一世代抗精神薬(first generaton antipsychotics:FGA)の使用方法の不備に助けられて成立した面がある。無作為二重盲検試験といっても、対照薬の選択や用量の設定という試験デザインには、自ずからある程度の恣意的な考え方が反映する。最近の大規模比較研究では、SGAの旗色はよろしくない。
1,CATIE(Clinical Antipsychotic trials of Intervention Effectiveness):米国NIMHによるCATIE studyでは、統合失調症患者1500名を対象に、1つのFGA(ペルフェナジン)と、4つのSGA(オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン)と、クロザピンを比較検討した大規模な臨床研究である。衝撃的だったのは、大方の予想に反して、総じてSGAがFGAと有効性において有意差が無かったことである。SGAとFGAは抗精神薬としての治療効果は類似しており、違いは、錐体外路症状や代謝作用などの副作用プロフィルにあり、薬物効果は患者ごとに違いがあるので、個別的な治療が大切であるとしている。簡単に言えば、FGAもSGAも効果の面では大差ないが、副作用の面では多少の違いがあり、どちらを使うかは患者ごとに使い分けを工夫するということである。
2、CUtLASS1(Cost Utility of the Latest Antipsychotic Drugs in Schizophrenia Study1):英国で行われたCUtLASS1では、統合失調症患者227人を対象に、FGA群とSGA群に無作為化し1年後のQOLを比較したところ、予想に反して両群間で効果の有意差はなく、むしろFGAが良好な傾向を示した。この試験ではFGA群とSGA群内の薬物選択は主治医裁量であり、FGA群の約半数において、錐体外路症状と鎮静作用の少ないスルピリドが選択されていた。
3、TEOSS(Treatment of Early-Onset Schizophrenia Spectrum disorder):米国で行われたTEOSS Studyでは、8~19歳の統合失調症もしくは統合失調感情障害患者119人を対象に、FGAのモリンドン、SGAのリスペリドン、またはオランザピン群に無作為に割り振って、8週間治療したところ、3群間で改善に有意差がなかった。一方で、リスペリドンとオランザピンでは、体重増加が有意に多く、モリンドンではアカシジアが多かった。
4、EUFEST(European First-Episode Schizophrenia Trial):EUFESTは欧州で行われた試験で、初発患者を対象として、ハロペリドール少量(1~4mg)とSGA(オランザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アミスルプリド)に無作為に振り分けて一年間治療を行った大規模なオープン試験である。結果は症状の改善度では薬剤間の違いは見られなかったが、治療中断率では、SGAの4剤はいずれもハロペリドールと比べて有意に低いということであった。以上最近行われた代表的な大規模試験の結果であるが、いずれの試験でも、FGAとSGAの効果の違いはなく、副作用の面で、FGAは錐体外路症状が起こりやすく、また、SGAでは肥満などの副作用が目立っているという。これらの結果は、臨床実感として、現実に近いものを感じる。特にSGAについて、FGAとの比較で効果の優位性は無い。副作用を考えた上で、どの薬を選択するかは、あくまで患者の個別性を考慮した上で、主治医の裁量であると思う。

統合失調症の薬物療法-新規薬は本当に優れているのか-
大森哲郎「第108回日本精神神経学会学術総会」教育講演より抜粋引用、一部要約

2013年08月03日
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