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2012-02-03

37.なぜ過去10数年間に、うつ病の人が増えたのか?その1。

日本では1999年以降に、うつ病患者が急激に増えている。社会全体にストレスが増えて、そのためにうつ病になる人が多いという説明がある。しかし、実際の統計を見ると、失業率や自殺率とは比例していない事実がある。では何と比例しているのか調べてみると、ちょうど1999年に、日本で初めて、SSRIという抗うつ薬が導入された年であり、これがうつ病を大きくクローズアップさせた要因であることがはっきりしている。実は他の先進諸国でも、これと全く同じ現象が起きており、たとえば英国では、1987年にSSRIが発売されて、1990年代から、製薬企業は積極的なプロモーション活動を行い、抗うつ薬の処方数が2.5倍に増加している。また、同じ現象は1993年から1998年までの5年間でSSRIを導入した、スウェーデン、オーストラリア、米国、カナダ、ドイツ、イタリア、フランス、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランドなど、軒並み抗うつ薬処方が増えている。米国では、1988年SSRIが導入され、1987年からの10年間で、外来うつ病受診患者は人口1000人あたり0.73人から2.33人と3倍以上に増加している。日本でもSSRI発売以後、抗うつ薬処方は5年間で約2倍に増加している。日米欧のデータを示したが、いずれの先進国でもSSRI導入後、うつ病患者数は数倍に急増し、うつ病診療に大きな変化が起きたことは事実である。米国コロンビア大学精神科のオルソン教授らの論文を引用すると、米国の場合、製薬企業は医療関係者や一般大衆向けに、精力的なキャンペーンを繰り返して、うつ病が次第に週刊誌の特集になったり、ベストセラーになったり、テレビのトークショウの話題になったりした。企業と研究者の共同研究によって簡単なうつ病スクリーニングテストが開発され、簡単で便利なうつ病の早期診断が推奨された。こういったメディアの影響は、米国人の受診行動を変え、うつ病受診者は増加した。一方で薬物療法でも大きな変化が起きた。1987年にはうつ病患者の37%しか抗うつ薬の投与は行われなかったが、1997年には75%と急増している。いずれの国でも、SSRI導入後、うつ病患者数が数倍に急増し、うつ病診療に大きな変化が起きた。これらのことは、1999年日本でSSRI導入された後に起きたことと全く同じ現象であり、やはり日本でもうつ病患者が急増している現実がある。なぜSSRIが発売されるとうつ病が増えるのか。製薬企業にとって新薬は2つの魅力がある。一つは高薬価の薬であること、もう一つは多くの人がかかる慢性的な病気の治療薬ということである。これら2つの条件を満たしたSSRIは製薬企業にとって非常に魅力的な新薬となった。つまり製薬企業にとって、SSRIはもっとも力を入れるべき主力商品なのである。
–冨高辰一郞著「なぜうつ病の人が増えたのか」幻冬舎ルネッサンスより引用-

2012年02月03日
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