toggle
2024-09-01

188.スマホが子どもたちに与える影響について、

 2017年10月、20年間のインターネット使用習慣を調べた過去最大の調査「スウェーデン人とインターネット」の結果が発表された。結論は、我々はスマホに取り憑かれているというモノだったが、誰も驚きはしないだろう。中でも子どもの生活にデジタル機器がどれほど大きな影響を及ぼしているかという事実である。それも、かなり小さな子どもまで。乳児、つまり月齢12ヶ月までの4人に1人がインターネットを使っている。2歳児は半数以上がインターネットを毎日使っているというのだ。学齢期以上になると、その利用率はほぼ100%になる。7歳児のほとんどがインターネットを毎日使い、11歳以降は実質全員(98%)が自分のスマホを持っている。ティーンエイジャーは1日に3~4時間をスマホに費やしている。睡眠、食事、学校や保育園への移動を除けば、残る時間は10~12時間。この時間の1/3以上、子どもたちはスクリーンを見つめている。当然ながら、これはスウェーデンだけの現象ではない。英国の調査でも、子どもとティーンエイジャーは毎日6時間半、スマホやタブレット端末、もしくはパソコンやテレビを見ている。(90年代半ばには3時間程度だった)。別の調査によると、アメリカのティーンエイジャーは毎日9時間をインターネットに費やしている。世界中からこんな統計が報告されている。大人の場合、画面ばかり見ていると知能が犠牲を払わされているのが分かっている。そこで、子どもや若者にそのような影響があるのか、これから述べていく。
 友人に、夏休みのバカンスはどうか訪ねた所、「ウーン、・・・天気は良かったし、ホテルも素敵だった。それでも余り楽しいバカンスにはならなかった」という。何故なら、旅行中は子どもと揉めてはかりだったことを話してくれた。何もかも子どもたちがスマホばかり使うせいなのだ。「食事中くらいスマホやタブレットをしまいなさい」というと、口論になり、最終的には別の部屋に置いてくるように強制する羽目になった。それでも子どもたちは、ホテルの薄い壁越しに聞こえてくるスマホの振動音ばかり気にしていた。「こんなに喧嘩した割には、結局何も一緒にしなかった。違う部屋に置いても、子どもたちはスマホのことばかり考えていて」彼女はあきらめきった様子でそういった。
脳には幾つものシステムがあり、同時進行で働くこともあるが、衝突してしまうこともある。立食パーティーでポテトチップス(以下ポテチと略)のボールの前に立つと、脳内のあるシステムが「ボウルの中身を全部食べてしまえ」と呼びかける。同時に、別のシステムがブレーキをかける。もうすぐ水着の季節だということから、「全部食べたら、恥をかくぞ」と呟く。これらのシステムは同じ速度で発達するわけではない。額の奥にある前頭葉は衝動に歯止めをかけ、報酬を先延ばしにすることができるが、成熟するのが一番遅いことも分かっている。25~30歳になるまで完全には発達しないのだ。つまり、ポテチを全部食べてはダメだといってくれる脳の部分は、10代の頃にはまだ無口なのである。一方ポテチを全部食べてしまえと背中を押す部分は、この年代では少しも静かにはしていない。スマホには人間の報酬系を活性化させて注目を引く、とてつもない力がある。衝動にブレーキをかける脳内の領域は、ポテチを我慢させるだけではない。スマホを手に取りたいという欲求も我慢させてくれる。この領域が子どもや若者の頃には未発達であることが、デジタルなテクノロジーを更に魅力的なモノにしてしまう。結果は見ての通りだ。レストランでスマホばかり眺めている子ども。学校でも。バスの中でも。ソファでも。親にスマホを取り上げられて泣き叫ぶ子ども。議論と言い争いが永遠に続くわけだ。
さて、ドーパミンは我々を様々な行動に駆り立てる仕組みがある。このドーパミンシステムの活動は生きている間に減少していく。大体10年で約1割減ると言われている。といって、年齢を重ねるほど不幸になるという意味ではない。むしろ逆だろう。ただ、若いときほどの興奮を感じることはなく、そこまでのリスクを冒すこともなくなる。ドーパミンがいちばん活発なのはティーンエイジャーの頃で、その量は報酬という形で激しく増えるし、失望すると激しく減る。つまり興奮もその反動も大きく、その時期は生きている実感や多幸感に酔いしれることもある。
同時に、途方もない悲嘆に暮れることもある。例えば彼女や彼氏にフラれた時などである。
もう一つ言えるのは、若者の方が依存症になるリスクが高いということだ。アルコールを若い年齢の者に覚えるのを規制しているのは、これが大きな理由である。ところが、スマホを持たせることに関しては誰も懸念していないようだ。脳の報酬系を活性化する恐ろしい力を秘めているというのに。スマホを使う頻度を各年齢層で調べた複数の調査によれば、大まかにいって若い人ほどスマホを使う時間が長かった。ティーンエイジャーは大人よりもスマホを使っていて、中でも中学生が一番使っていた。幼い頃の記憶に、自分がリビングのテレビに釘付けになって、「5匹のアリは4頭のゾウより多い」1)を見ながら指で数を数えようとしている、というのがある。私の世代では、大勢の子どもがこれを見て数や文字を覚えた。とびきり面白い番組だった。この「5匹のアリ・・・」のような番組を見て子どもが数字や文字を学ぶ、さらには読解力を身につけられるのは間違いない。だが、教育テレビ番組を活用できるのは、学齢期に近い年齢になってからのようだ。2~3歳の幼児への効果はそれ程無くて、親などとの直接の交流から学んでいる。
タブレット端末やスマホのアプリで教育番組と同じような効果を期待することはできる。しかし、学齢期に近い子どもに最も効果があるようだ。タブレット端末を「学習タブレット」と呼んで、2歳児に持たせて、何かを学んでくれると思うのは希望的観測でしかない。カロリンスカ医科大学付属病院小児科ヒューゴ・ラーゲルクランツ教授は長年、子どもの脳の発達を研究してきた。彼はタブレット端末が発達を助けるというアイデアには批判的で、むしろ小さい子どもの場合は発達が遅れる可能性があると述べている。テクノロジーがごく幼い子どもにも良いとする誤った考えは、子どもたちを「小さな大人」として見ている点にあると指摘している。パズル遊びを例にとってみよう。大人にとっては、アプリのパズルと本物のパズルにそれ程大きな違いは無いだろう。一方、2歳児は本物のパズルをすることで指の運動能力を鍛え、形や材質の感覚を身につける。そのような効果はi Padでは失われてしまうのだ。別の例では、書く能力がある。皆がキーボードを使う今、手で書いたり、綺麗な文字を書く練習をするなんて何の意味も無いように思えるかもしれない。しかしまだ書くことを習得していない場合には、ペンを使って練習することで文字を覚えていく。就学前の子どもを対象とした研究では、手で、つまり紙とペンで書くという運動能力が、文字を読む能力とも深く関わっていることが示されている。米国の小児科医グループも、同じ主張をしている。専門誌[Pediatrics](小児科学)でも、普通に学ぶ代わりにタブレット端末やスマホを長時間使っている子どもは、その後の算数や理論科目を学ぶために必要な運動技能を習得できないと警告している。また、子ども、特に1歳半未満の子どもは、タブレット端末やスマホ使用を制限すべきだと主張している。「子どもは遊ばせよう」という記事の中で、米国小児科学会は「衝動をコントロールする能力を発達させ、何がに注目を定めて社会的に機能するためには、遊びが必要である」と指摘している。

- アンデシュ・ハンセン著「スマホ脳」より引用-

1):1973~75年に放送されたスウェーデンの子ども向けテレビ番組、音楽に合わせて数字やアルファベットを紹介するような内容。

2024年09月01日
関連記事