toggle
2022-02-01

157.換気扇もつり革も怖い、「コロナ感染だけではない不安・恐怖」について、

「初詣の人混みが怖い」コロナ禍の元日、都内の会社員男性(29)は寺から早足に帰ってきた。久し振りの人混み。参拝者と肩がぶつかりそうな時は、心の中で「うわ」と小さな声が出ていた。マスクなしで大声で会話する人がいて、急いで参道から離れた。「人混みの中をウィルスが飛んでいる、感染したら怖いと思うと、感染対策ができてない人にキレそうになった」心がどうにも落ち着かない。コロナ禍になり、電車のつり革はますます触れたくないし、外出先でのトイレ選びも慎重になった。精神科医曰く、コロナ禍をきっかけに社会の常識が変わったことが潔癖症や恐怖症の発症や悪化のリスクになっていると述べる。「世の中で清潔がより意識されるようになり、自粛が求められ、生活様式が変わりました。心身のストレスからくる心の病気の発症や、何らかの影響を受けやすい条件が整っています。中でもいわゆる潔癖症の患者さんが大きく増えています」。
潔癖症とは、過度に清潔にこだわること。不安や恐怖を払拭しようと何度も手洗いするなど、過剰に行動をする強迫性障害の一種とされている。例えば、コロナ禍に外出することがきっかけになり、”ばい菌が付いたんじゃないか”と強迫観念にかられる。強い不安が払拭できず、きれいにしないとだめだと思い、何度も手を洗う、消毒をするのが強迫行為である。
一般的には一度洗えば安心する。だが、強迫性障害は、洗ったのに同じ不安がわき上がってくる。きれにしないと気が済まないという考えに支配され、しっくりくるまで手洗いをするのが習慣になり、自分でコントロールできなくなる。儀式化してしまうのだ。「単なるきれい好き、心配性とはわけが違う」都内に住む30代の女性会社員は「コロナ以前から潔癖症ですが、以前より気になることが増えました」と話す。もともときれい好きで、電車の床にかばんを置く人を見ると、トイレに行った足で踏んだ床によく置けるなと、自分の安全が脅かされているような激しい感情が湧いたという。帰宅後は手洗いはもちろん、入浴しないとおかしくなりそうだった。コロナ禍になって、あらゆる所に消毒液が置かれるようになり、世間の衛生観念が向上してよかったと一時的には思っていた。それがスーパーでのこと。「感染対策でレジの人がゴム手袋をするようになりました。でも、手袋をしたままお金を受け取り、さらに商品も触れていて、汚いと思った。床に置かれたかごも、それを重ねているのかと思うと気になって、商品を洗いたくなるが、どうにか自分をコントロールしています」自分の中で消毒に対する要求度が上がり続けているような気がするという。潔癖症だけではない。名古屋市のIT企業に勤める男性(26)は、「私は換気扇を見たり、考えたりすると、恐怖を感じる、”換気扇恐怖症”です。換気扇を見ると、吸い込まれるような感じがして、身がすくみます。トラウマという表現が近いかもしれない」と述べる。高所恐怖症、先端恐怖症と同じように、換気扇を見たり、考えたりすると、尋常でないほど怖くなる。限局性恐怖症といい、これも不安症の一つだという。この男性もコロナ禍の影響を受けた。コロナの感染対策として換気扇は欠かせない。「コロナ禍になって、換気扇を意識することがかなり増えた。コロナの感染対策として換気扇は欠かせない。飲食店など屋内施設に入る際には、換気されているかをチェックします。見るのはイヤダが、コロナの情勢では無視できない。コロナも換気扇もどちらも怖い。換気扇を使わず、窓を開けて換気しているようなお店は安心できます」この、換気扇恐怖症で悩む人は結構多い。この症状の解説は、「恐怖は危険が差し迫っているアラートです。脳の誤作動と言われていて、本当は危険ではないのに、見た瞬間、恐怖心がわいてくる。なぜ換気扇が怖いのか人には理解されずに、孤立してしまい、うつ病を併発する人もいる」。

コロナ関連の恐怖や不安をきっかけに、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人もいる。「恐怖症が他人にとっては何でもないものを恐怖の対象にするのに対して、PTSDは災害や犯罪など、明らかに命の危険にさらされた後、鮮明に思い出すフラッシュバックの症状が現れる。別名記憶の冷凍保存と呼ばれている」。イタリアの調査では、コロナ重症者の3分の1が、PTSDを経験するという報告がある。コロナで生死の境をさまよってことが恐怖体験になり、それがトラウマになるのだと考えられる。過酷な医療現場でPTSDになる医療スタッフもいる。「ある病院でコロナ感染第一号になった看護師が噂を立てられて、PTSDになった。コロナ対応で逼迫した別の病院では、担当していた入院患者がコロナ陽性だと判明した看護師が、自分自身の感染の可能性が高まりPTSDとうつ病を発症して、仕事を辞めた事例もあった」
ここ約2年、世界中がコロナ禍に覆われている。感染症そのものだけではなく、不安や恐怖が人々を蝕む。コロナでみんなが大変なのに、自分だけつらい・怖いといってられないと思いがちである。口に出さず頑張っているスタッフの方々、でも辛かったら受診をお勧めします。早く治療すると寛解できる。症状と付き合いながら日常生活を送る選択肢もあるはずです。どうか無理に頑張り過ぎないでください。
「コロナ感染だけではない不安と恐怖が蔓延」-アエラ2022.1.17号より引用      

2022年02月01日
関連記事