toggle
2020-06-01

137.コロナうつの回避-分断とうつから命を守ることについて

ソーシャルディスタンスが求められる中で、居場所を奪われ、追い詰められる人々がいる。緊急事態宣言が明けても、学習した恐怖はなかなか消えない。経済が悪化すれば、失業者が増え、自殺者が増えることも予想される。
「こんなに心を追い詰められるなんて、予想もしなかった」IT企業の派遣社員の40代の男性はこう語った。関東圏の2世帯暮らし、1階には両親と男性と弟の4人、2階は妹夫婦と保育園に通う子供2人が住んでいる。4月初旬、新型コロナウィルスの影響で男性はテレワークになった。ほぼ同時に保育園が休業し、共働きの妹夫婦は毎日子供2人を両親に預けるようになった。そこから男性の心身のリズムが狂ってしまう。「テレワークに集中しないといけないのに、子供が奇声を上げたり走り回ったり、すさまじい暴れ方なんです」1ヶ月ほどはなんとか耐えたが、5月に入ると夜眠るときに「また明日が来るのか」と鬱々とするようになった。頭痛と激しい下痢も始まり眠れない。追い打ちをかけたのが、家族の無理解だった。父親に「子供を預かるのをやめてくれ」と訴えたが無視され、妹からは「ごめんね、お大事に」とメールがきただけ。ある日、ついに爆発した。「うるさい!」と叫び、自宅の壁を蹴り、家の外に飛び出し、しばらくさまよい歩いた。このときの記憶はほぼ飛んでいる。「どうかしてましたね。自分を制御できない感じでした」男性は心療内科を訪れ、医師から投薬を受けた。翌日には地元の法律事務所の相談窓口へも行った。「弁護士さんからは”家を出た方がいいよ”と。割り切れて、少し気持ちが楽になりました」少し落ち着けたものの、心の不調は続き、寝込むことも多い。「今の心配は、次に妹が子供を預けに来た時、平静でいられるかどうか。間違っても子供に手を上げたくはない。コロナが無ければこんなことにはならなかった」出口はまだ見えない。
コロナ禍で多くの人が生活の変化を余儀なくされ、不安やストレスを抱えている。いま、各種の電話相談には様々な悲鳴が寄せられている。中でも多いのがコロナで物理的な居場所を奪われた人からの相談である。「ステイホーム」といわれるが、家は万人にとって理想の居場所ではない。精神疾患のある人や高齢者が利用していたデイケアや通所作業所、アルコール依存症のグループミーティング、引きこもりの人を対象とした喫茶室などの集まり、スクールカウンセリングなど、なんとか居場所を見つけて通っていた人たちが、コロナで居場所を閉じられ、孤立している。一つの居場所が無くなることが、社会的に弱い立場にいる人に強いストレスを与えている。人は仕事、家庭、友人、趣味など、「複数の柱」に支えられ生活し、それらが相互に補いバランスを保っている。しかし高齢者、子ども、心身に重い病気を抱えている人たちは、どうしてもデイサービス、学校、病院、自助グループなど「一つの柱」の重要性が高くなり、そのほかの柱を充実させることが困難になる。柱とは居場所でもあるため、そこへのアクセスが断たれると生活のバランスが崩れ、メンタルの不調が現れやすくなる。では、代わりの場所をどう作れば良いか?
情報格差に影響されやすいオンラインよりも、電話相談などの従来型のサービスの方が、確実に助けになりそうである。これは人から温かい言葉をもらえるかどうかがポイントである。ソーシャルディスタンスが求められる状況で、お互いに温かい言葉、人の温もりのある気持ちを渇望している部分がある。無理して明るく振る舞ったり、優しい言葉をかけなくても、「おはよう」「いかがお過ごしですか」「元気に過ごしている?」といった何気ない挨拶で、気遣いは伝わるものである。
-コロナ鬱の回避策、アエラNo.26、20.6.1より抜粋引用した-

2020年06月01日
関連記事