191.発達障害の症状・治療について、
発達障害は生まれつきの特性と考えられており、不注意・衝動性を特徴とするADHD(注意欠陥多動障害)と、相手の考えを言葉や表情のニュアンスから読み取るのが苦手で、特定のことに強い興味・関心、こだわりの強さなどが特徴のASD(自閉症スペクトラム)がよく知られている。
これらは近年、患者数が不自然なほど急増し、過剰診断を指摘する精神科医も少なくない。福岡市にあるクリニックの原田Dr曰く「自閉症スペクトラム症の特性を薄く持つ人(診断閾値下、俗に言うグレイゾーンの人)が強いストレスを受けた時に現れる症状(幻聴様・妄想様)を、統合失調症とか、うつ病などと安易に診断して誤った治療を続ける医師が余りに多い」と、発達特性の見落としの多さに憤りを述べている。
原田Drのクリニックに通う患者Aさんは現在、インチュニブ錠を服用しているが、回復に役立ったのは薬だけではない。行動の障害であるADHDの治療では、環境改善が何よりも大事になる。日常生活や仕事に関するDrからの親身なアドバイスは、めざましい効果があった。「Drから見ると、私は人嫌い病なのだそうです。確かに深い付き合いが苦手です。夫婦や親友のような関係になるとさりげない気遣いを求められますが、私には無理だと分かったので、そういう関係になることが怖いのです。Dr曰く、<人と接する機会をできるだけ減らす。狭い部屋に時々閉じこもって過敏な脳を休ませる。そのような対策をすれば、人嫌い病でも商売を続けられる>と励ましてくれました。店には自分の代弁者を置いて、その人から従業員に伝達する方法を教えてくれました。通常は代弁者とだけ話せば良いので、大分楽になりました」「他にも様々なアドバイスを頂いております。複数の人から一度に話を聞くと混乱するので、打ち合わせの参加者は自分以外に3名まで、基本的には1対1で話す。通常のやりとりは書面やメールで終わらせる。こうすると刺激が減って能率が上がる。無性に買い物したくなったら100円ショップに行く」など。
誤診多発の核心は、どこにあるのか。
統合失調症の幻聴と、聴覚性フラッシュバックの違いは何でしょうか?
この聴覚性フラッシュバックとは、発達障害の人に起こりやすく、例えば「小学校の時に恐ろしい体育教師が言っていた」とか、声の主を特定できることが多い。「特定できない誰かが何か言っている」というのが幻聴であり、例えば「CIAが恐ろしい言葉を送ってくる。なぜならそういう技術はCIAにしかないと思うから」というような、感知している訳の分からない現象を後付けの知識で補うのが幻聴である。
また、妄想にも違いがある。統合失調症の人は、「宇宙人に体を乗っ取られて操られている」というような、イマジネーションが広がりすぎて周囲には了解不能な被害妄想が特徴的あるが、自閉症スペクトラム症の人は、目の前のことに捕らわれやすく、被害的な訴えも「課長は絶対に俺のことを嫌っている」とか、「お母さんは僕ばかり怒る」とか、相手を特定できることが多い。これは被害関係念慮といって、被害妄想とは異なる。なぜこんなことを考えるのか、良く聞けば理由が分かってくることが多い。
昨今、複雑性PTSDという新たな疾病名がWHOの国際疾病分類第11版(ICD-11)に掲載された。これは慢性的・反復的な虐待などのトラウマ体験により、フラッシュバックなどの典型的な症状が引き起こされるだけではなく、感情調整や対人関係の困難など、精神的な健康が蝕まれた状態と定義される。従来のPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、戦争や大災害などで生きるか死ぬかの瀬戸際だった人や、人が惨たらしく死ぬ姿を目撃した人の一部に起こるものである。先生に怒鳴られた程度ではPTSDにはならない。複雑性PTSDも、比較的弱いストレス体験の積み重ねではなく、継続的な強いトラウマ体験があることがWHOの定義では前提になっている。しかし、自閉症スペクトラム症や「薄い自閉」がある人は、傍目から見るとそこまで重くない様に見えるストレス体験の積み重ねでも、複雑性PTSDのような状態になりやすいと考える専門家は多い。先に挙げた聴覚性フラッシュバックも、その症状の一つと見られる。また、子供の頃の虐待経験なども、ストレス耐性の低下につながるという見方もある。自閉症スペクトラム症の人は、記憶の処理の仕方が定型発達の人と違っている。ショックが大きいと記憶の処理が滞りやすい傾向がある。例えていうと、ジューサーミキサーで、スムージーを造ると考えてみる。普通の大きさのフルーツや野菜であれば、どんどん砕いてスムージーにできるが、スイカが丸ごと降りてくると、ブレンダーボトルの入り口につかえて処理できない。だからずっとそこにあり、過去にならないのである。
これがPTSDのトラウマの正体で、スイカのように巨大な衝撃を受けると定型発達の子供にも起こりうる。自閉症スペクトラム症の人は、ブレンダーボトルの入り口がもともと小さいので、リンゴやミカン位の大きさでも、すぐにつかえて山積みになる。命に関わるほどではない同級生からの反復的なイジメも、酷いトラウマ体験となり、フラッシュバックや精神症状につながる。
この複雑性PTSDのフラッシュバックに対しては、抗うつ薬や抗不安薬を安易に使うとかえって悪化する恐れがある。ある種の漢方が有効といわれている。
また、自閉症スペクトラム症の人に多い過敏症に対しては、特定の薬物の少量投与が有効といわれている。なお、過敏症は脳の神経の問題であり、たとえば、光過敏症に対しては、感覚器の問題だから、カウンセリングや認知行動療法をいくら受けても知性では処理できない 。この症状には薬を使わないと効果が無い。
- 佐藤光展「心の病気はどう治す?」-より抜粋引用した
2024年12月02日